楽譜探索中に遭遇した「國民精神總動員軍國唱歌集」は大変珍しい本のようだ。古書価15,000円で売りに出されている。大日本作曲家協会と日本作歌者協会の編纂、共益商社書店から昭和13年に発行されている。目次は次の通り:
1 軍國の母 柳善吾 名倉 晣 2
2 決死隊 傳田治 井上武士 4
3 渡洋爆擊 近藤吐愁 深澤一 6
4 戰友 小林愛雄 名倉 晣 9
5 空軍勇士 犬童球溪 平岡均之 10
6 言葉なき勇士に捧ぐ 松原至大 本多鐵麿 12
7 凱旋歡迎の歌 服部嘉香 山本 壽 14
8 歡送歌 富原薫 下總皖一 17
9 皇軍の謳へる 水代三 山口保治 18
10 慰問袋に添へて 水都代三 平岡照章 22
11 結べ心を 西岡水 室崎琴月 24
12 護國の英霊に捧ぐ 今井十九二 平岡照章 28
13 アジヤの盟主 松永みやを 江澤太 30
14 衞生隊の歌 濱田廣介 名倉 晣 32
「軍國唱歌集」略すれば「軍歌集」となるが、いわゆる軍歌ほど勇ましい歌は少ないようで、やはり唱歌集と称する所以だ。そもそも、「軍國唱歌」なる呼称は初見であるので、検索してみると、ちゃんと「軍國唱歌日本海大海戰」などという古い唱歌がヒットした。勿論、日露戦争当時のものだ。軍国主義を鼓吹する唱歌の意味で定着していたのだろう。当方が知らなかっただけだ。
全14曲の作者(作歌者、作曲者)が興味深い。馴染みだったり、どこかで拝見したお名前が多い。いずれも軍歌とは無縁の印象のある人達だが、これまた、当方が知らなかっただけなのだ。
作曲の山口保治は「ないしょ話」など、室崎琴月は「夕日」などで知られる“童謡作曲家”であり、平岡均之は、小学唱歌「若葉」と区歌「大新宿区の歌」が歌い継がれている。名倉晣は3曲入集しており、売れっ子の観があるが、合唱曲でお目に掛ったような気がする。平岡照章は「子鹿のバンビ」など童謡もあるが、「もしも月給が上ったら」のようないわゆる流行歌も有名だ。