竹中暉雄・著「エーデルヴァイス海賊団―――ナチズム下の反抗少年グループ」(勁草書房 1998.1)を図書館から借りて読んでいる。何故この本を予約したのか、例によって覚えていないが、題名の奇抜さに惹かれたことは間違いない。
清楚可憐なイメージの高山植物の花を冠した海賊名、しかもご丁寧に≪団≫付けである。また、日本では一般に≪エーデルワイス≫と呼ばれるところ、敢えて原語風に表示していることに釣り込まれたのも確かだ。
アマゾンの通販サイトから本書の紹介文を引用する:
≪ヒトラー・ユーゲント(ナチ少年団)のパトロール隊を見つけては喧嘩をふっかけたり、「自由のために我らは戦う」「エーデルヴァイスは進軍す」などと歌い、そしてまた「その日はいつかやってくる」とナチ支配から解放される日のことを期待するビラまでをも作っていた若者たち、ナチにやられるだけではなく、やり返していた少年少女の一団がいた。 "…だが僕らの悲しみを絶対に駄目になどさせない。僕らは若い。人生を楽しむつもりだ。" 統制や禁圧をきらい、ヒトラー・ユーゲントに敵対した少年少女グループの活動をあざやかに描く。≫
著者は≪あとがき≫で次のように記している:
≪エーデルヴァイス海賊団のことがこれほどまでにナチ当局者やヒトラー・ユーゲントにとって悩みの種となっていたのなら、トラップ男爵が歌ったエーデルヴァイスは当然彼らの神経を逆なでしたはずであり、『サウンド・オブ・ミュージック』の作者たちはきっと海賊団のことを意識していたに違いないなどと、勝手に想像をたくましくした。≫
単純に読むと、史実として、トラップ男爵が「エーデルヴァイス」の歌をうたったように読める。「エーデルヴァイス」の歌は、言うまでも無く、アメリカのミュージカル作家たちの手によって作られたもので、舞台設定の時代には存在しなかった。
まさか著者がそのことを知らない筈は無い、とすると、≪もし、当時既に「エーデルヴァイス」の歌があって、それをトラップ男爵が公然と歌ったとすれば~≫という反実仮想の前提を置いているのだろうか。とにかく、紛らわしい一文だ。
揚げ足取りに終わっては、本書の価値を伝えることが出来ない。我が国では知名度の高くない≪エーデルヴァイス海賊団(Edelweißpiraten)≫を一般に紹介してくれたことに先ず敬意を表しなければならない。同時代の日本では体制翼賛団体一色だったことを思い、彼我の相違に愕然とする。
しかも、本書には、エーデルヴァイス海賊団の歌が紹介されている(pp.56-69)。歌詞(邦訳)だけで、楽譜の無いのが残念ではあるが。
いつもの癖で、念の為に≪エーデルヴァイス≫をネット検索したところ、ドイツ語の歌が実在していたことが判った。ドイツ軍兵士が第二次大戦中に歌っていたとかで、歌詞も音源もしっかりアップされていたようだが、音源の方は無効になっている(サイト 西洋軍歌蒐集館)。原題≪Es warein Edelweiß≫で検索するとYoutube などで沢山ヒットする。海賊団の歌の方は、英語サイトが充実しているようだ。