調べものの最中に偶然目にした歌曲集「新調女聲唱歌」(青木歌子作歌並編1932.3 修正再版)に興味深い作品を多数発見した。編者・青木歌子の詩による歌曲集で、当代一流の音楽家が名を連ねている。
曲名でハタと立ち止まったのが、藤井清水作曲「赫夜姫昇天」である。藤井清水の名は既に馴染みだが、曲名の解読には数秒を要した。因みに、歌詞は次の通りである:
一、「ぬぎ置く衣を形見とし、
月のいでなん宵々は
雲井遥かに見おこせ給へ。
みすてまつりてまかる身は
天つ御空ゆおちぬべき
心地しはべる、かなしや。」と、
二、年月つもる恩愛の
きづなに心ひかれつつ、
いとど置きそふ
袖の上(へ)の露。
はてしなければ、今はとて
天の羽衣着くるより、
心もかろく身もかろく。
三、昼をあざむく望(もち)の夜を
飛ぶ車行く雲の上。
百人(ももたり)ばかり天人具して
月の都へ帰ります。
かりの契りを竹取の
竹より生(あ)れしかぐや姫
この歌詞を読んで曲名の解読が正解であったことを確認した。それにしても、「赫夜姫」の表記は一般的だったのだろうか。“かくやひめ”が原音であったことを窺わせるものと言ってよいだろうか。ネット検索すると、地名≪富士市原田字赫夜姫≫がヒットする。富士山のお膝元だから、かぐや姫伝説ゆかりの土地と言える。
曲名「赫夜姫昇天」の“昇天”にも虚を突かれた思いだ。考えてみれば、将に本来の字義通りの用法なのだが、身に沁みついた用語法が理解を妨げる。