歌曲集「新調女聲唱歌」(青木歌子作歌並編1932.3 修正再版)は上中下3巻から成り、曲数はそれぞれ18,17,17の計52である。各巻収載の独唱、二部唱、三部唱各曲数を示すと、
独唱 二部 三部
上 12 6 0
中 9 6 2
下 5 9 3
となっている。合唱の練度を上げていくように配慮した構成であるように思われる。
独唱曲の中に、信時潔の作曲が二つある:
(中) 「壁のあと」 4/4拍子
(下) 「風の音」 6/8拍子
相互に無関係の2曲だが、その題名の音韻が酷似している。発音して比較すれば自明であり、ローマ字で表記すると目にも鮮やかである:
Kabe-no-ato
Kaze-no-oto
だからどうした、と糺されれば一言も無いこんな≪発見≫が面白くて興味が尽きない年頃なのだ。音韻酷似のこれら二歌を同一作曲者に委嘱したのは、偶然だとは思うが、あるいは青木さんの遊び心もあったのだろうか。
なお、両曲とも、信時の作品らしく歌い易いメロディーである。「風の音」が6/8拍子で、付点八分音符と十六分音符の組合せや臨時記号が使われていたりするから、下巻に入れたのだろうか。
いずれにしても、メロディー自体は素直で歌い易い印象であるが、伴奏譜を見ると、随分凝っているように見える。大先生、ただ歌い易いだけの曲を作って満足していたのではなさそうだ。