保阪先生の講話≪小学唱歌とドイツ語≫で記憶に残った事項を追加記録しておこう。
童謡「ぶんぶんぶん」もドイツ起源である。ドイツ語では Summ,sum,sumだとか。発音は“ズムズムズム”又は“スムスムスム”で、後者は南ドイツからオーストリア方面の発音である。歌詞は、“Summ,summ, summ! Bienchen summ herum! ~~~”と続き、Bienchenが“蜂さん”の意味。
英語でも“蜂”はbee で、子音 bで始まっている。日本語で蜂の羽音を“bun,bun,bun”と言うのに通じる、とのご意見である(と思った)。蜂の欧語と日本語の擬音とで子音が共通であることにヒトの感性の普遍性を見るかどうかはさて置き、次のような面白い情報もある:
≪ イインと鳴く馬、ブと飛ぶ蜂
“垂乳根之 母我養蚕之 眉隠 馬声蜂音石花蜘蛛荒鹿 異母二不相而”
これは、万葉集巻十二所収、第二九九一番歌である。次のように解読する:
“たらちねの母が飼う蚕(こ)の繭隠(まよごも)りいぶせくもあるか妹(いも)にあわずして”
「馬声」が「イ」、「蜂音」が「ブ」に対応する。
蜂が飛ぶ音を「ブ」や「ブン」でとらえるのは、ごく自然なことといえるだろう。≫
(今野真二「ことばあそびの歴史日本語の迷宮への招待」河出ブックス、pp.22-23。「馬声」がなぜ「イ」と読まれるのかの解説も面白い。)