先日、駿河台下の古書会館の即売市を覗いた時に、挨拶代わりに買ったのが、文部省「初等科音楽 四」だった。同じ品物が2点あり、傷みの目立つ安い方を買った。中味は同じだ。奥付に、≪昭和十八年一月六日 文部省検査済≫と付記した麗々しい証印が印刷されている。
日付けとしては他に、昭和十七年十二月二十七日 印刷
昭和十七年十二月三十一日 発行
昭和十八年 一月 四日 翻刻印刷
昭和十八年 三月 十二日 翻刻発行
がある。
恥ずかしながら、“翻刻印刷”“翻刻発行”の意味が解らなかった。辞書を見たら、“翻刻”とは reprint のことであった。≪著作兼発行者 文部省≫、≪発行所 東京書籍株式会社≫の表記と併せ考えて漸く全体の構図が見えたような気がする。
文部省がタネ本を発行し、会社が同じ内容の本を改めて製版、印刷、発行したという建て前なのだろう。実際には面倒な二度手間を掛ける筈がない。会社が一貫作業で発行しているのだろう。
小学生用の音楽教科書なのに、目次を見ると、(現代の)大人にも読め(そうも)ない題名がある。
≪九 肇国≫など如何。当方は“チョウコク”と読んだが、正解は“ハツクニ”である。≪十二 御民われ≫は如何。当方は以前から知っている歌だが、初見では読み方に迷うだろう。正解は“ミタミわれ”である。当時は常用語だったのかもしれない。
歌詞を見ると、≪十六 少年産業戦士≫の出だしが“朝(あした)にいただく残んの星影”である。“残んの”が読めなかった。楽譜ページを見て、“ノコンノ”と知った。語彙の貧困を恥ずべきか。
巻末「練習題」は、変ロ長調終止形、ト短調終止形、日本音階による合唱基礎練習が1ページずつ、三和音が五線譜上に書き連ねられている。我が義務教育で教わった記憶が無い。特に“日本音階による~”は≪ニ陽音階≫、≪ホ陰音階≫、≪ニ律音階≫と見慣れない術語が並ぶ。戦中の小学生はこんな難しい音楽教育を受けていたのか。実効はあったのか。