偶然に『人狼城の恐怖』という約二十年前の小説を読み始めた。新書サイズの各五百ページ前後四冊仕立てという大作で作者は二階堂黎人。
ドイツとフランスに跨る双子の古城を舞台として同時に起きる二つの連続殺人事件を巡る推理小説と言ってしまえばそれまでだが、とにかく長大な読み物だから、骨が折れる。間歇的に読み進めていると、記憶の劣化もあり、ストーリーがぼやけてくる。
ヨーロッパの地理、歴史、文学などに詳しく、独仏語の発音にも詳しそうな著者の博識には舌を巻く。ヴォリュームを嵩上げする冗長な記述には閉口するが、読み通すための眠気覚ましに、過去の日付けの曜日が正確かどうかを確かめることにした。作品の発表が二十年ほど前で、時代設定は更に二十五年ほど前、つまり1970~71年頃になっている。
調べた限りでは曜日は正確であった。当然と言うか、物書きとしては初歩的な作法だろうから、調べようと思うことが馬鹿げているかも知れない。
この小説には、小道具として“狼男”の伝説が使われており、必然的に“満月の夜”が描写される。
例えば、1970年6月14日(日)の満月という設定がある。これを暦のページで検索すると、日曜日には違いないが、月齢は10~11程度であり、満月には数日足りない。
また、1971年3月24日も満月との前提で記述されているが、暦のページによれば、月齢26前後であり、後三日ほどで新月である。ヨーロッパと日本の時差を考慮しても、これら両日に満月を迎えていたとは思われない。
厳密を旨とする推理小説でもこの程度の見落としはあるのか、それとも当方が何か勘違いしているのか。
出版物にはつきもののミスプリなども散見される。