ムーアの「お耳ざわりですか」を読み進んだら、フリードリッヒ・グルダが槍玉に上がっていた。当方は、グルダをグールドとペアで記憶しているので、ムーアが両人を登場させていることに、つい喜んでしまう。
伴奏ピアニストとして絶対の自信を持つ誇り高いムーアは、名のあるソロ・ピアニストや指揮者がスター歌手の伴奏を買って出ることが気に入らない。僻みではなく、歌手(あるいはソロ器楽奏者)の才能や魅力を引き出すことにかけては、(優秀な)伴奏ピアニストが勝るとの自負からである。
彼が我が意を得たりと引用している批評家のコメント(グルダの伴奏によるヒルデ・ギューデンのレコードについてのアレック・ロバートソンの批評):
≪労働組合における境界画定がなされた昨今、ソロ・ピアニストや指揮者が、ときどき伴奏家となるのが禁じられないというのは、驚くべきことである。至極当然ではあるが、その仕事では彼らが成功することはまずないのである。このレコードでは、確かにグルダは美しく演奏しているが、さほどうまく伴奏はしていない。ペダル過剰であったり、熟練伴奏家のような鋭敏さに欠けるからである。≫
ムーアは、≪ヒルデ・ギューデンのかなりの名声は、この名ピアニストと組んだことによって、さらに高められたであろうか。私はそう思わない。≫と断言している。歌手たちの有名音楽家との共演願望を遠回しに皮肉っているようである。
ヒルデ・ギューデン HildeGüden, 1917年9月15日- 1988年9月17日 オーストリア出身のソプラノ歌手
フリードリッヒ・グルダ FriedrichGulda, 1930年5月16日- 2000年1月27日 オーストリアのピアニスト・作曲家
アレック・ロバートソンAlec Robertson, 1892年6月3日 – 1982年1月18日, イギリスの音楽評論家
ヒルデ・ギューデンの名は知らなかったが、エリーザベト・シュヴァルツコプフなら当方もお馴染みだ。この名ソプラノもヴァルター・ギーゼキングやヴィルヘルム・フルトヴェングラーの伴奏で歌ったことがあるらしい。ムーアは、それら有名ピアニストや大指揮者が、熟練伴奏家が彼女に与えられるはずの援助を与えていないことに気付いていないだろうと難じている。ムーアには怖いもの無しである。