Quantcast
Channel: 愛唱会きらくジャーナル
Viewing all articles
Browse latest Browse all 1579

ジェラルド・ムーア ~ お耳ざわりですか ~ フロレンス・フォスター・ジェンキンス

$
0
0
古書市の常連客だった頃、恐らく十年以上前、何気なく手に取ってみた有名なピアニストの随筆が面白そうで直ぐに買った。と言うことは、多分二百円程度のお買い物だった筈だ。期待に違わず充実した内容だった。
 
「お耳ざわりですか- ある伴奏者の回想 -」(Am I Too Loud?共訳:荻原和子 本澤尚道 音楽之友社 1982)というその本の原著者はジェラルド・ムーア(Gerald
Moore1899730 - 1987313日)、ピアノに殆ど興味の無かった当時の当方でも、その名前だけは知っていたのだから、世界的な大家だったに違いない。イメージ 1
 
面白く読んだものの、長く我が記憶に残ったのは、唯一つ≪あるテノールのコンサートで伴奏の際、彼の調子がイマイチで、音を一音下げて弾いてくれと頼まれ、お安い御用と快適に弾いていたのだが、ハッと気が付くと、一音高く弾いていた。テノールさんは顔を真っ赤にして必死の形相で歌っていた≫というエピソード(細部は正確ではないかも知れない)だった。
 
その「お耳ざわりですか」を最近何かで思い出させられて、図書館から借りて読み始めた。古書市で買った1冊を所有していることは間違いないが、それを“掘り出す”ことは不可能なのだ。再読とは言いながら、内容は殆ど忘れているから、初読のように新鮮な気分で読める。
 
全体で417ページの初めの方、43-44ページに、ムーアが未だ修業し始めの頃に伴奏を務めた声楽熱中者が描かれている:
 
≪機会がある度に彼は歌った。気の毒に、彼の声はおよそ聴くに耐えなかった。それは、歯ぎしりをするような、皿の上でナイフの音をさせるような印象を与えた。そのうえ、彼のイントネーションもまた、興味深いものであった。≫
 
このように、ムーアは歯に衣着せぬ正直な書き振りで、解り易く、読み易い。続けて、次の一文がある:
 
≪それは、調子外れの歌を聴いてくれる、自分だけに都合の良い聴衆をかき集めていた富裕なアメリカの素人ソプラノであるフォスター・ジェンキンスに匹敵した。≫
 
こんな所に、あの≪フォスター・ジェンキンス≫の名が引用されているのだ。ちょうど二か月前にそのソプラノさんを話題にした(ソプラノ・F.F.ジェンキンス~超絶音痴~癒しの... 2016/6/13())。彼女の生没データ(1868719-19441126)を見ると、ちょうどムーアの親世代である。下手な歌い手の代名詞に使われるくらいに彼女は有名だったのだ。
 
当節、ジェンキンスと言えば、ヴィジュアル系アイドルのメゾソプラノ、キャサリン・ジェンキンス(Katherine Jenkins, 1980629 - )だろうな。

Viewing all articles
Browse latest Browse all 1579

Trending Articles