私はエコノミストだが、どうしても理解できないことがある。物価は上昇することが望ましく、下落するデフレはだめだとする考え方だ。だが物価が上昇すれば経済は成長し、国民生活は向上するのか。
デフレ脱却を唱える人たちの多くが、景気悪化を恐れて消費税率の再引き上げには反対だ。増税すれば物価が上昇するが、それは望ましくないと言っていることになる。
しかし、この人たちの多くが円安は望ましいと考えている。円安で輸入物価が上昇して、価格転嫁によって消費者物価が上がればデフレ脱却につながると言っている。
いつも買っている食パンが値上がりしたとする。その理由が、消費税率引き上げのせいなら望ましくないが、円安で輸入小麦の価格が上昇したせいなら望ましいのか。理由が前者なら食パンの売れ行きは落ちて、後者なら購入量は減らないのだろうか。
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物価が上がれば景気がよくなったり、生活が豊かになったりするのではない。物価は経済成長の結果として上がるものでなければならない。(五十嵐敬喜)
体制派メディアの雄たる日経新聞に、小さめのコラムとは言え、これだけ明確に“物価を上げて”景気拡大を目指す政策に対する批判が載ったのは驚異だ。これは政策大転換の前触れか。それとも、ちょっとしたお目こぼしか。
今回ご登場頂いたエコノミストの方、そのお名前は往年の“マダムキラー”テノールを思い出させるのだが、偶然の類似かな。