月刊誌「婦人之友」5月号に梅津時比古氏が興味深いエピソードを紹介している(おんがくてちょう 隠れた名曲 pp.146-147):
≪ロッシーニの素晴らしいオペラ「モーゼ」が、何故かヨーロッパの一部でしか上演されていない。日本でも未だだ。
第4幕、エジプト軍に追い詰められてモーゼが紅海を前に祈る「星がちりばめられた王座から」が白眉。その旋律はパガニーニの難曲「モーゼ幻想曲」の主題であり、ヴァイオリンに関心のある人などによく知られている筈だ。
「モーゼ幻想曲」は、ヴァイオリンの最も低い弦G線のみを使って高音弦の領域まで弾くように指示されている。≫
このように教えられると、素人としては単純に「G線上のアリア」を思い出す:
≪J.S.バッハが作曲した管弦楽組曲第3番ニ長調BWV1068の第2楽章「アリア(エール)」をヴァイオリニストのアウグスト・ウィルヘルミがピアノ伴奏付きのヴァイオリン独奏のために編曲したものの通称。
通称はニ長調からハ長調に移調されているため、ヴァイオリンの4本ある弦の内の最低音の弦、G線のみで演奏できることに由来する。≫(ウィキペディア)
ところで、梅津氏の主旨はもっと高尚な本当のエピソード部分にある。氏がミュンヘンで「星がちりばめられた王座から」を聴いたとき、パガニーニが難技を課した理由に初めて気が付いたと言いう。苦しみぬいた果の人間の声であると。指揮をしたサヴァリッシュに「初めて分った」と発見を伝えたところ、彼は「モーゼ幻想曲」を知らないと答えた。