≪ニュートンのリンゴの木≫の伝説は昔聞かされて、今でもほぼ覚えているが、最近、≪ルターのリンゴの木≫なる格言・名言のあることを知った。
一般財団法人キリスト教文書センター 書評誌≪本のひろば 2012.2≫
『ルターのりんごの木』M.シュレーマン著、教文館―(宮田光雄)
書評の対象たる『ルターのりんごの木』の売り文句は:
“宗教改革者ルターの言葉と言われながらも出典が不明であったこの言葉は、いったいいつ、どこで生まれたのか?
本当にルターの言葉なのか? それとも「似て非なるルター」がいたのか?
ひとつの格言をめぐる膨大な歴史史料・時代証言・アンケートから、戦後のドイツ人の心性史を解き明かす!”
まず、その格言というのを確認しなければならない。調べたところ、次のようである:
≪WENN ICH WÜSSTE, DASS MORGEN DIE WELTUNTERGINGE, WÜRDE ICH HEUTE EIN APFELBÄUMCHEN PFLANZEN!
Even if I knew that tomorrow the world would go topieces, I would still plant my apple tree.
たとえ明日世界が滅びることを知ったとしても、今日私はリンゴの苗木を植える。≫
様々に解釈できそうな言葉である。東日本大震災の直後にも、絶望すること無く立ち上がろうと勇気づける意味でよく引用されたそうだ。
この格言は、実はルター本人に由来するものではなく、“彼の讃美歌や詩編翻訳などを通してドイツのキリスト者の間で日常化していた言い回しを用いて、ほとんど意識されないままに言葉の入れ替えが行われて、出来上がったものだろうと推定されている”という。
ルターの権威をまとった格言は、歴史をも動かしたという。旧東ドイツにおいて、“国土に≪苗木を植えよう≫と訴える象徴的行動が、やがて若者たちの軍事教育反対や兵役拒否の動きとも連動して、ついにはベルリンの壁を崩壊させることになった”のだそうだ。
アイザック・ニュートンはルター没1世紀後に生まれている。≪ルターのリンゴの木≫を知っていただろうか。
≪ニュートンのリンゴの木≫ 邑田 仁