高野陽太郎/著「鏡映反転」なる新刊本に興味を覚え、図書館に予約を入れたことを書いたのは2か月以上前だった(2015/9/7(月))。今日漸く読み終えた。予測よりも1か月ほど早く読めたわけだが、“さもありなん”だ。本のタイトルや出版社の売り文句は十分に好奇心をそそるのだが、実際手に取って読み始めると、興味本位で読解できるようなシロモノではないのだ。
先約の皆さんのうち、直ぐに読破を諦めて早目に返却した方が多かったのではないか。かく言う当管理人も、途中で精読は諦め、飛ばし読みしたのだ。それでも全体を読んだ気になるのは、本書の言わんとするところが明解である(と思われる)からだ。
とにかく、長年人類を悩ませてきた(?)“鏡像の左右反転”問題は、高野陽太郎先生の“多重プロセス理論”によって科学的に解明されたのである(と信じ込まされる)。
先生自身が認める通り、“多重プロセス理論”は複雑である。本書を寝っ転がって通読する程度では、まず頭に入らない。頭に入らなければ、先の方へ読み進む気にはならないだろう。通俗書と考えれば、当然、途中で投げ出す可能性が高い。
しかし、学術書であれば、その分野の然るべき御同業の方もいらっしゃって、きちんと読んだ上で内容の吟味をなさるから、批判や反論も出てくるに違いない。この一般向けの本が出る前に、学会では“多重プロセス理論”は、そのような洗礼を受けて来ていることが述べられている。つまり、批判、反論などに十分耐えられる理論であることを本書は明らかにしているので、“なぜ鏡の中では〈左右〉が反対に見えるのか?”という疑問の答えは与えられたことになる。
さて、肝腎の“多重プロセス理論”の中味だが、ここで略説することは手に余る。複雑すぎるので、と言うか、当方も完全に理解しているとは言えないので、立ち入らないことにする。ただ、半世紀ほど前に自分なりに“見付けた”と思い込んでいた答えに我田引水するならば、“左右反対に見えるのは、心理現象であり、実物(本物、イメージ)と鏡像との比較の仕方による”ものであり、物理的に記述できる現象ではないと言えるのではないか。
つまり、左右反対に見えるのは感覚的なことであり、物理学的に左右反対であることを意味しない。極論すれば、左右の定義の問題でもあるという事だ。また、反転しているかどうかも、判断基準が唯一ではないから、人によって見え方が違うことが当然にあり得る。
ところで、本書で教えられたことも幾つか有る。先ず、基本的な事でありながら、今まで意識していなかった“前後反転”の光学現象がある。鏡は、左右・上下を光学的に反転させないが、前後は反転させるという事実だ。
また、厳密に理論を戦わせる場合には、当然ながら、論理的思考力が物を言うことも再認識させられる。直観的に、あるいは単純明快に、説得力の有る言明に惑わされないよう、形式論理の訓練も怠らないことが大切だ。