昨日話題とした国民合唱「アリューシャンの勇士」は、案の定、以前に入手し、しかも当欄で取り上げていた(国民合唱~アリューシャンの勇士~こひのぼり 2012/8/4(土))。記述ぶりも酷似しており、今さらながら健忘症を痛感する。既視感(デジャビュ)のあったことを以って、せめてもの慰めとしよう。
勝承夫/岡本敏明「試錬の時」もユニークな歌だと思ったのだが、これまた前回取り上げているので、やめておこう。代って登場して貰うのは、深尾須磨子/弘田竜太郎「木炭の歌」(週報第329号 昭和18年2月3日付け)である。
まっ赤に炭がおこってる
総力戦の只中だ
木の魂も火になって
お国の大事を守るのだ
桜も楢もおこってる
まっ赤になっておこってる
上手に炭を使ひましょ
総力戦の只中だ
貴重な炭の能率を
高めてお役にたてませう
櫟も樫もおこってる
真っ赤になっておこってる
おこってはねる炭達よ
総力戦の只中だ
敵愾心に燃えてゐる
必ず勝つぞと構へてる
雜木も松もおこってる
まっ赤になっておこってる
“おこってる”が5回出てくる。回数の多さもさることながら、強い語感が全体の厳しい印象を醸していると思われる。漢字で“怒ってる”としていないところがミソか。
我が古里の方言かも知れないが、火に勢いの有る様を“おこる”と表現していたような気がする。そこで辞書検索してみたら、次のような説明があった:
大辞林第三版の解説 おこる【起こる・起る】 (動ラ五[四])
~~~「熾る」は“火が盛んに燃える。おきる”の意。仮名で書くことも多い。「火鉢に火が熾る」「炭火が真っ赤に熾る」~~~。
やはりこの歌詞の“おこってる”は“怒ってる”ではなく、“熾ってる”なのだ。尤も、“怒ってる”と取ってもそれなりに意味は通じるだろう。
曲はハ長調、2/4拍子、前奏4小節、歌31小節、中間にやや短調気味の流麗な16小節を挟んで、前後は歯切れの良い軍歌調である。これ、弘田節と呼びたくなるような形式ではないか。彼の作品を多数見たわけではないが。