男声合唱の愛好者に根強い人気を誇る「希望の島」は、原曲“That Beautiful Land” 作詩F. A. F. White(Mrs.)、作曲Mark. M. Jones、編曲D. B. Towner、訳詞(部分作詞)小松玉巌と伝えられる。
この度、ウェブサイト≪「希望の島」のルーツを探る(概要版) 2010年5 月 25 日 吉居清≫の情報により、この歌の初出とされる音楽雑誌≪音楽界≫第2巻第6号(明治42年6月)を復刻版で見る事が出来た。次のチャンスには、初出時の楽譜で演奏してみたい。
≪音楽界≫は明治41年1月から大正12年12月まで16年間にわたり、全190号発行されたそうで、編輯者小松耕輔、発行者山本正夫、発行所楽界社、発売所音楽社などとなっている。
教育的色彩の濃い同誌ではあるが、内容は今読んでも含蓄に富むものもあり、また、歴史上の人物の活躍時の動静なども管見され、なかなか面白い。
毎号数曲の楽譜が掲載されている。「希望の島」所載号の次号に「黙祈」(モツアルト曲、乙骨三郎 歌)という曲があり、そのメロディーをなぞったところ、Ave verum corpus であった。乙骨三郎の歌詞は次の通り:
眞 (まこと)の人 ( ひと )とぞ御相 ( みすがた )を現 ( あら )はし
一切 (なべて)の世 ( よ )の為 ( た )め悩 ( なや )み給 ( たま )ひて
たふとき血 ( ち )しほを流 ( なが )しゝわが君 ( きみ )。
御救 (みすくひ)賜 (たま)へや、神の審判 ( さばき )の、
あはれその日 ( ひ )に。
原詩の抄訳のようになっていると思われる。明治時代に“Ave verum corpus”を日本語で歌おうという試みがあったとは知らなかった。今でも原語でしか歌わないのではないか。
なお、同誌同号の≪中央楽況≫欄に慈善音楽会の開催された旨の記事があり、その中に“絃楽四部合奏 アヴェ・ヴェールム モツツアルト(ママ)作曲”が含まれている。演奏者4名の一人は山田耕作氏である。チェロを弾いたと思われる。彼は独唱者としても登場し、大活躍である。