図書館から借りて、岩井三四二「三成の不思議なる条々」(光文社 2015.1.15)を読んだ。申し込み順で回ってくるまでに何か月も掛るから、例の如く、何故興味を持ったのか、いつ申し込んだのかも思い出さぬまま読んだ。巧みなネーミングに誘われたのかも知れない。
関ヶ原の戦と前後の出来事を中心に、当時の生き残りの人物たちの思い出話を一人の町人が聴き回ると言う風変わりな体裁の歴史小説だ。関ヶ原の三十年後という時代設定だから1630年ごろ、徳川3代将軍家光の治世だ。
徳川方、豊臣方それぞれの諸大名所縁の人物を登場させて、攻防の様や事態の推移などを証言させ、最終的には石田三成が何故家康に逆らって戦いを挑んだのか、三成は如何なる人物だったのかを浮き彫りにしようという執筆意図だと思われる。
家康は天下を手に入れたかったのであり、三成は主家豊臣家を守るべく忠節を尽くしたという描き方は、一般の常識的理解に沿うものだと思う。両勢力の間で右往左往した諸大名の思惑はどうだったのか、誰が寝返り、裏切ったのかなどの挿話も面白いが、当方にはそれが事実か創作かは解らない。ただ、誰もが保身に心を砕いていたという見方が全体を貫いており、それは本当だろう。誰もが、道義、道理よりは、お家大事、我が身可愛い、というのが正直なところだろう。
それだけではさっぱり面白くない。著者の最大の仕掛けが最後に待っている。関ヶ原後三十年、豊臣家滅亡後十五年、余命幾許もない津軽藩主が面だった家臣たちに遺言する中で、徳川から輿入れした正室の子でなく、三成の娘だった側室の子を跡継ぎに指名する。津軽家の三十年後の関ヶ原決着という趣向で、読者も満足という訳だ。
三成の息子のうち二人が生き延びて仏僧として平穏に暮らしているとも述べられている。これらが史実か否か、これまた当方の知識の及ぶところでない。