某学生食堂で、大ベテランのおばさんが、うどんひと盛りをトレーに載せて広い堂内を触れ歩いていた。
“稲庭うどんをご注文のお客様、うどんをお忘れですよ。”
客は、配膳カウンターで注文の品を受取り、トレーに載せてテーブルに運んで食べる。“うどん”を注文した客が“うどん”無しで食べているとしか考えられなかった。
ひと回りしたおばさんがカウンターに戻り、誰も申し出なかったと報告していた。
暫く経って、若い配膳係のおばさんが同じ物を捧げて出て来た。今度は真っ直ぐある席に向かって行き、そこで何か説明している風であった。その客は、後ろ姿しか見えなかったが、老人であった。向かい合って着席して食べているのは、老人の陰になって姿は見えないが、幼児のようであった。
これで事態が呑み込めた。少し脳の委縮した(当管理人のよう)老人が孫連れで学食を利用したのだ。二人分のうどんを注文し、一人分だけ受け取ってカウンターを去ったのだ。サービス員がそれに気づくのが遅れ、姿を見失ってしまい、“うどんの忘れ物”を触れ歩く次第となったのだ。
くだんの“稲庭うどん”をサービスしたおばさんは客の姿を覚えていたという訳だ。それにしても、何とか“忘れ主”を捜し出して忘れ物を届けようとする学食側の良心的かつ親切な対応には感心した。
昨日、汗だくで桜盆栽のプレゼントを貰った後のことだった。