図書館に予約しておいた小泉保/著「縄文語の発見」(青土社 1998.6)を今日借り出してざっと目を通したところ、タイミング良く、昨日話題にした鼻濁音の地方分布を垣間見せる表があった。関係部分を書き直すと次の通り(「ン濁」は濁音のゲにンが先行する発音):
裏日本縄文語 秋田 宮城 島根 基形
「陰カゲ」のゲ 鼻 鼻 濁 濁
表日本縄文語 愛知 岡山 十津川 基形
「陰カゲ」のゲ 濁 濁 ン濁 ン濁
これに他の情報を加味して著者が推定する縄文語基語の「陰カゲ」の語形は次の通り:
裏日本縄文語 表日本縄文語 九州縄文語 弥生語 縄文基形
濁 ン濁 ン濁 濁 ン濁
「陰カゲ」という一つの言葉の発音だけで鼻濁音の分布やその変遷を考えることは出来ないとしても、この結果によれば、縄文語には鼻濁音が無かったことになる。鼻濁音は「ン濁」型の発音から派生したとすると、東北・北陸方言は表日本型と見るのが自然だということになる。これは常識に反する。
断片的知識を組み合わせて類推することの危険性を示す一例としよう。
なお、上掲書のPRコピーは次のようである:
“日本語の誕生のみならず、いわゆる上代特殊仮名遣い、連濁・四つ仮名現象、アクセントの発生、方言分布など、日本語学における難問をここに解き明かした。”