歌唱指導の場でよく注意されることの一つに鼻濁音がある。助詞の「ガ」など、鼻に抜けるガ行の音を大切にせよとのご注意で、当管理人などは何を今更と思う。
“日本語で優しく響く発音とされるガ行の「鼻濁音(びだくおん)」を日常生活で使う人は5人に1人しかおらず、全国的に著しく衰退しつつある。来世紀には東北地方でわずかに残るだけとなり、それ以外の地域は消滅する可能性が高い。
全国の成人803人を対象に、鼻濁音を含む五つの単語を発音してもらうと、鼻濁音を使う人は「日本語」で25・6%、「東」で22・5%、「鏡」で21・1%、「中学校」で19・1%、「英語」で19%と少なかった。
「鏡」で鼻濁音を使う人は70代で39・5%いるが、50代は25%、30代は11・5%と若くなるほど減り、20代は5・8%だけ。「人口の17%を占める19歳以下の世代は今回調べておらず、日本人全体では2割を割るだろう」。
(1957~64年度に全国でガ行子音の発音の分布を調べている。鼻濁音を使う地点は、九州・中国や四国の瀬戸内側など西日本ではごく少なく、近畿を含む東日本に多かった。)
今回の調査では、「鏡」で鼻濁音を使う人は九州・中国・四国では皆無で、近畿も4・3%しかいない。東日本でも半数を超えた地方は東北の66・2%などだけで、首都圏は22・2%だった。”
これは俄かには信じがたい調査結果である。確かに、若い歌手に鼻濁音の衰退傾向のあることはかなり前から判ってはいたが、日常会話では鼻濁音は健在であるように思う。調査の母集団に偏りは無かったのか。殊更に発音して貰うという調査方法が発音に影響していないか。日常会話の中の発音を調べれば異なる傾向がありはしないか。
それより、鼻濁音率の地方分布が面白い。東北、北陸が断トツに高い。九州、中国、四国で低い。近畿、関東は中間だが、関東の方が高い。この分布傾向は、現在の日本人の生成過程を想像させる。鼻濁音を使う先住人種を、使わない遅参人種が周縁部に追いやったように見える。
鼻濁音と濁音を区別する表記法が使われていないことが鼻濁音衰退の一因であるというのだが、濁音が優勢となるのは何故だろう。濁音の方が発音に大きなエネルギーを要するように思うが。鼻濁音の方がスムーズに発音できそうだが。
表記法と言えば、「ハ」「パ」「バ」のような半濁点、濁点を使う案があったように記憶するが、何故普及しないのだろう。その必要性が感じられないくらいに鼻濁音の衰退が進んだということか。