《機》2015.1(No.274)の連載記事『ル・モンド』紙から世界を読む142 「社会ツーリズム?」(加藤晴久)が面白かった。
十数年前からだろうか、グリーン・ツーリズム、エコ・ツーリズム、アグリ・ツーリズムなど、単純な物見遊山ではないことを強調する観光商品が目立ち始めた。医療ツーリズム、奉仕(ヴォランティア)ツーリズムなどもあるようだ。
「社会ツーリズム」もその延長上にあると思うのは当然だ。社会問題の認識を深めるような内容の観光旅行かと。そうではないからこそ、加藤先生は“?”を付したのだ。『ル・モンド』紙に見掛けた le tourisme social がその原語であるという。
EU(欧州連合)市民は域内どこの国にも移動・居住する自由を保障されている。それを利用してドイツ、イギリス、スウェーデンなど福祉制度が充実している国にやってきて生活保護を受けるルーマニアやブルガリアからの域内移民がおり、この現象を「社会ツーリズム」と呼ぶのだそうだ。
ドイツのライプツィッヒ市に住むルーマニア人女性が生活保護の受給を拒否された。EU市民が他国に居住するには、職に就いているか、求職活動をしているかでなければならない。この女性は求職活動をせず、職業安定所の斡旋も受け入れていなかった。したがってドイツに居住することはできず、社会福祉も受けられないとの判決をEU司法裁判所が下したと言う。
反移民・反EUの極右政党や国内の反EU勢力に迎合するイギリスのキャメロン首相らはこの判決を歓迎した。この文脈からは、EU市民の域内移動・居住の自由に枠がはめられたような印象を持つのは極く自然だろう。
ところが、『ル・モンド』紙によると、“この判決は、社会ツーリズムを阻止する法的手段を強調することによって、移動・居住の自由を改めて確認している”のである、という。これは、石灰化の始まった脳には、瞬時には理解できない論理である。だからこそ、加藤先生は態々紹介しているのだろう。
言わば、逆説論法だろうか。