怠惰な老躯に鞭打って段ボール箱の資料を漁っていたら、神長瞭月作「ヴァイオリン 新流行歌音譜集 一集」(岡村書店 大正15年10月15日発行 40銭)が出てきた。これについては、“「われらの日本」~~~「日本のあさあけ」~~~信時潔 2008/11/5(水) ”で、その入手事実を記した。
いま改めて捲ってみると気になる曲目が並んでいる。取り敢えず目次を転載しておこう:
月下の長恨、ばらの歌
不如帰の歌
嗚呼櫻島
半生の夢
奈良丸くづし
カチユーシャの歌
ハイカラ節
乃木将軍の歌
乃木夫人の歌
華厳の嵐
駿河湾の惨劇
噫無情
生さぬなか
空中の惨劇
松の聲
残月一聲
ベリマチの歌
ゴンドラの歌
これらのうち、メロディーを共有するものが幾つかある。「カチユーシャの歌」と「ゴンドラの歌」とは、今でも広く歌われている。前者の歌詞は現行のものと同じだ。ところが、後者は、現行とかなり違って、次の通りだ:
(一)命短し、恋せよ乙女、
君が瞳の美しき間に、
愛の泉の涸れぬ間に、
明日といふ日は。ないものを。
(二)命短し、恋せよ乙女、
いざ手をとりて春の野に、
花に戯るゝ蝶の様に、
此処には人は、来ぬものを。
タイトルにしても、今は“~の唄”とするのが普通だ。神長さんは島村抱月の詞(カチューシャ)は了としたが、吉井勇の詞(ゴンドラ)は気に入らず、改作したのか。著作権の絡みの無いことは明らかだ。そもそも、どの曲にも作詞・作曲者名の表示が無い。
更に更に、本書のタイトル自体が、表紙には「神長瞭月作曲 獨習自在 ヴァヰオリン 新流行歌音譜集」とあり、神長さんが作曲したものとなっている。一体どのような論理で他人の作品を自作と称する事が出来るのか、興味深い。
実は、冒頭に記した書名、神長瞭月作「ヴァイオリン 新流行歌音譜集 一集」は、目次ページに頭書のものである。
本書には第3の書名があり、扉には「獨立音樂會々長 神長瞭月氏作 バイオリン 新流行歌音譜集」とある。いずれにしても、今の感覚からすれば、これらの表記は、本書の内容全体が神長氏の作ということになる。
善意に解すれば、ご本人にはそのように他人の作品を横取りする意図は全く無く、著作権の意識が希薄で、大らかだった当時の慣行に倣ったものだろう。ところが、本書“はしがき”が微妙である。