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数学者・志村五郎②~1合理主義~論文不正

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志村五郎/著「数学をいかに教えるか」が素晴らしい本であると断定した本当の理由は、童謡の話題で締めくくっているからではない。合理精神に基づき、所信を明解かつ具体的に表明しているからだ。
 
最も端的にそれが現れているのは、歴史的事実に基づく戦争責任及び天皇制に関する記述である。彼は天皇制を変なものと言う。天皇又は天皇制に対する盲目的な賛美は全く理解できないようである。先の天皇(志村先生は裕仁と書く。)の戦争責任について以前から意見を述べているらしい。
 
今時の日本では、天皇又は天皇制をあからさまに批判する時は、実生活上、相当の不利益を覚悟しなければならない雰囲気がある。志村先生は数学者として世界的な名声を確立しているし、アメリカに生活の本拠があるから、その点の心配は無用なのだ。
 
かと言って、先生は所謂左派でもない。レッテルを貼るとすれば、合理主義者しかない。数学者だから当然だろう、とも言えないところが面白い。数学者にもいろいろあることを教えてくれる。
 
例えば、“3トンの砂を積んだトラックが5台あると、砂は全部で何トンか”という問題について、“3x5=15”と“5x3=15”のどちらが正しいかを論じる数学教育者がいるらしいと揶揄している。どちらでも正しい答えが得られるので、どちらかが正しくない掛け算であるなどと言うのは馬鹿げていると明言される。
 
当管理人も、尻馬になるつもりではないが、全く同感である。この掛け算の順序という問題は、必然的に“乗数”“被乗数”の区別を思い起こさせる。中学校で教わったのだろうか、その識別に困惑したことを覚えている。つまり、合理的でなかったのだと思う。後年、英語で multipulied by なる表現に出会ってから、先行するのが“被乗数”だったかなとは思ったが、何かしら恣意的な命名法であったと思う。
 
もっと悪質な事例も紹介されている。著書や論文で、無断引用や剽窃は沢山あり、間違った内容について責任を取らなかったりする人が絶えないそうだ。信用できない論文や著書が沢山出回っているのに、内容を自らチェックしないで盲信する人が殆どであるとも指摘している。
 
例のSTAP細胞などは、偶々内容が画期的過ぎて目立ったが故に正体が暴かれたに過ぎないということになる。志村先生はこの騒動を踏まえて悪質な著者や論文について注意喚起したわけではないと思うが、本書の《はじめに》は19142月の執筆となっている。STAP細胞が話題になっていた初期の頃だ。発行はなぜか半年後の8月になっている。
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