リチャード・マーティン/著「トリウム原子炉の道 世界の現況と開発秘史」の後半部分では、世界各国でのトリウム原子炉研究の状況を述べている。“強いアメリカ”“偉大な先進国アメリカ”を愛する著者の焦り、危機感が迫って来る。
アメリカ国内で既成のエネルギー業界が厖大な利潤を享受し、殊更に現状を変革するインセンティヴを持たない一方、環境問題の深刻化やエネルギー資源の枯渇を懸念する諸国での動きが活発である現状に愛国者として警鐘を打ち鳴らしているのだ。
我が日本での動きにも言及しており、トリウム原子炉の商用化で先陣を切るのはこの国かも知れないとも言っている。これは、本書(原書)の内容が約2年前、福島原発災害の興奮覚めやらない頃の最新情報であることを考えると、強ち誇張でもなさそうだ。
しかし、その後、原発廃止から(ウラン燃料の)原発推進へと180度の方向転換を果たした現在の日本では、もう、その“惧れ”は無いと断言できる。マーティンさんよ、ご安心ください、日本に関する限り、アメリカを出し抜く恐れはありません。
冗談はさておき、同書には、日本政府もトリウム原子炉研究に対して補助金を出している旨の記述がある。想像するに、ばらまかれた科学研究費予算の一部が、トリウム原子炉研究グループに流れたようだ。政府が積極的に、明確な意図を持って研究補助に乗り出したという気配は無い。
尤も、アカデミックなレヴェルでは、エネルギー資源や地球温暖化ばどの観点から真剣にトリウム原子炉の研究、啓蒙活動に取り組んでいるグループがあることは確かなようだ。
門外漢たる当管理人には、トリウム原子炉の特質を的確に判断する能力は無いが、少なからぬ専門家がこれだけ推奨する第4世代原子炉であれば、国としても正式に重要課題として取り組んでも良さそうな気がする。
一般会計予算案が百兆円規模になったそうで、そのホンのひとしずくを充てるだけで良い。それによって、未来永劫エネルギー不安が解消され、環境悪化が阻止でき、核兵器拡散も抑止できる可能性があるなら、躊躇するまでもない。