野村成仁 編「青年讃佛歌」という当管理人的には珍しい歌曲集がある。京都・興教書院の発行で、大正十年初刷の大正12年三刷とある小A５判、薄冊である。背表紙に“本譜”とある。表題から解る通り、讃美歌集の仏教版である。中身は次のようになっている：
洋式楽譜28曲 第一 釋尊降誕會 ～ 第十七 憧れ 単旋律
第十八 報恩講 ～ 第廿八 四恩 二部複音
第十九 春 ～ 第廿二 冬 世俗曲
編者 野村成仁の肩書は、平安中学校・京都女子高等専門学校・京都高等女学校の先生となっている。編者となっているが、実際に収載全曲を作曲したようだ。この人、当欄既出である（小學唱歌「軍艦」～軍艦行進曲～軍艦唱歌 2012/2/7(火)）。
歌詞作者として、梅原眞隆、井上賢順、鈴木行三、菊月畦花の４氏が挙げられているが、曲ごとには特定されない。梅原は、当管理人的には著名な仏教学者である。特に浄土真宗に所縁の人と記憶している。本書の扉にも、“本派本願寺学務部指定”と明記されている。本派本願寺とは、一般に西本願寺と呼ばれる浄土真宗本願寺派のことだそうだ。
抹香臭い歌ばかりかと言うと、そうでもない。上記の通り、春夏秋冬、四季の歌は正に四季の風情を詠むだけである。気分転換を意図したものだろうか。
高低両部の掛け合い形式を取り入れた曲もあり、なかなか洒落た“讃佛歌集”の印象だ。
永らく知らなかったのだが、この種の仏教讃美歌集が、その世界では随分多く出版されているようだ。我々世俗凡愚の目には触れないだけらしい。