元旦に眼が覚めて、目出度く2015年を迎える事が出来た。初詣や初日の出に付き合ったり、年始回りをしたりという習慣は昔から持ち合わせていないが、世の中の動きに同調して改まった気分ではある。
無精者にも簡単に出来る(?)初モノは、初夢だ。今夜から明朝に掛けて見るのが初夢だと聞いているので、幸先良く楽しい夢を見られるよう、今日一日、心穏やかに笑顔で過ごしたい。心は必ずしも自由にならないが、笑顔を保つことは可能だ。
人面鬼心なる表現もある。しかし、形は内容を作るとも言う(?)から、笑顔を絶やさなければ心も随いてくるのではないか、とは屁理屈か。因みに、人面鬼心を中国語として、機械翻訳すると、Peoplefaceghostheart. だそうだ。我が理解とは異なる。
初夢で思い出すのは、湯川秀樹博士が先の戦争の末期に見た(と言われる)、放射線で敵アメリカに一泡吹かせるSFじみた夢物語だ。朝日新聞(1945年1月8日)にそのような記事が載っていたとの情報を何から得たかは忘れたが、図書館の記事検索データベースからコピーを取った。
《科学者・新春の夢》
B29の四倍の親飛行機 無人機操り米本土爆撃へ(山本峰雄 航研所員、航空機構造の権威)
華府(ワシントン)を吹飛ばす 洞穴から”謎の放射線” (湯川秀樹 京大教授、湯川粒子の発明)
敵基地の蠢動も暴露 すごい・高性能受信機の威力 (浅田常三郎 阪大教授、電波兵器の権威)
このうち、湯川の放射線兵器の夢の想像図として、“謎の光線を浴びるワシントン議事堂”の写真が挿入されている。本文は、電磁波や粒子線に関する正確な知識に基づいているので、湯川本人の語りのように思わされる。今ではニュートリノと言い慣わされる“中性微子といふ新種の粒子”もしっかり言及される。
だが、“日本本土の山の中腹から出た一筋の白い雲のようなものが東の方へ延び、太平洋を越え大きな弧を描いてアメリカ首都ワシントンの上に落ちてゐる”という想定はお粗末過ぎる。湯川博士が、たとえ冗談にしても、このような初歩的な勘違いの想像を語る筈が無い。それにしても、8か月後には日本が強烈な放射線を浴びることになったのだから、向きは逆だが「正夢」だったと言えるかも。
念のため、見出し直下の前書きを読むと、“苛烈なる決戦の新春、日米科学陣もまた決戦の年である、わが科学者はどのやうな初夢を育んだか・・・・浅田常三郎・・・湯川秀樹・・・山本峰雄・・・の初夢を綴り、科学日本新攻勢への示唆を描いてみよう。”となっている。お三方に取材したかのように巧みな表現をしているが、ほぼ記者の創造であると判断される。
《山本氏の夢》においても、“プロペラ機が二万メートル以上の高空を巡航”できるかの如く述べられているのは、専門家の言葉とは見做しがたい。狂気に駆られて自滅の戦争に酔い痴れていた当時、有名人の名をこのように利用しても、国民の戦意昂揚に資するとあらば、どこからも文句は付けられなかったのかも知れない。
まさか、ご本人たちがこの通り喋ったなんてことは無いだろうなあ。