「詩人のための量子力学」は、前回紹介した通り、量子論の結論を素人向けに文章で説明しているので、解り易く、面白い。具体的な事例や比喩が良い。それが真理を正しく伝えている保証は無いものの、読み手をして一歩前進したと思わせる。
特に気に入ったのが、第9章《重力と量子論―――弦理論》で使われている図35(粒子)と図36(弦)である(p.347)。
量子論では物質の基本はいわゆる“粒”の姿をしているとは考えない。次元がゼロの点でイメージされる粒ではなく、1次元のヒモが物質を構成する単位であるとする弦理論(及び超弦理論)が今主流である。
図はそのイラストで、x-y平面を我々が知覚する現実世界とし、これに直交するz-軸が時間を表すとして、x-y平面上の粒や弦が三次元時空でどのように存在しているかをイメージさせる。当然ながら、粒は時間軸に沿う線に見え、弦は帯(リボン)に見える。弦がヒモの切れ端(開弦)であればそうなるが、輪(閉弦)であれば三次元時空でチューブ状に見える。
それがどうした、という議論は難しいのでパスするとして、気に入ったのは、これとほとんど同じことを当ブログで以前書いたことがある(重力とは何か~弱すぎる重力~4次元の想像 2012/11/3(土))という自己満足による。
“円筒状の宇宙を平面で切断する図形(単純には円)を2次元世界であると考える。この2次元世界が時間軸に沿って定常的に動いており、その平面世界に束縛された者は円筒宇宙に連続的に存在する過去・未来のどの時点(切断面)をも見ることはできない。”
当管理人がこの着想を得たのは、半世紀以上前だが、その80年近く前(今から130年前)に既に類想小説が出版されていたということも書いた。
これらは量子論とは全く無関係な思索によるものだ。また、次元数を減らしての、単純化してのアナロジーであり、言わば空想である。
量子論の数学的な表現は観測事実を整合的に説明できるという意味では“正しい”し、現実に役に立っているから、真実であると認めてよい。
しかし、数学的表現(方程式)の意味するところを我々の知覚に合せて言葉で表現する(解釈する)場合、それが真実であるとは確信できない、というのが正直な感想だ。
例えば、物質の単位は、振動する弦である(あるいは、弦の振動である)というのは単なる比喩にしか過ぎないのではないか、という意味だ。