久し振りに通俗科学解説書を読んでいる:
レオン・レーダーマン/クリストファー・ヒル著 吉田三知世/訳
主著者レーダーマン,レオン・M. は、1922年生まれのアメリカの実験物理学者で、ボトムクォークの発見で知られ、1988年にミューニュートリノの発見によるレプトンの二重構造の実証でノーベル物理学賞を受賞したという。
ご存命ならば92歳のご高齢、執筆当時(原著出版1911年)でも89歳ということを考えると、実際には共著者ヒル,クリストファー・T. が主に執筆したのかも知れない。多分レーダーマンよりは若いだろうから。
訳書出版社の謳い文句は:
“教育に力を入れる実験物理学者が、物質を根底から支配する不思議な量子の世界を案内する。基本概念から量子コンピューターなどの応用まで、数式をほとんど使わずにやさしい言葉で説明した、だれもが深く理解できる量子論。”
目次
第1章 これがショックじゃないなら、君はわかっていないのだ
第2章 量子以前
第3章 隠れていた光の性質
第4章 反抗者たち、オフィスに押しかける
第5章 ハイゼンベルクの不確定性原理
第6章 世界を動かす量子科学
第7章 論争―アインシュタインvs.ボーア…そしてベル
第8章 現代量子物理学
第9章 重力と量子論―弦理論
第10章 第三千年紀のための量子物理学
補遺 スピン
第2章 量子以前
第3章 隠れていた光の性質
第4章 反抗者たち、オフィスに押しかける
第5章 ハイゼンベルクの不確定性原理
第6章 世界を動かす量子科学
第7章 論争―アインシュタインvs.ボーア…そしてベル
第8章 現代量子物理学
第9章 重力と量子論―弦理論
第10章 第三千年紀のための量子物理学
補遺 スピン
全体に読み易い。著者の言う通り、数式をあまり使わないで、文章で説明するように工夫していることが確かに効果的だ。しかし、その点は数ある類書にも共通なのだ。
思うに、本書の特徴は、一般に理解し難い“量子論”を言葉で説明するに当たり、奇妙な量子的現象を著者自身も奇妙だと正直に述べていることが読者を引き込むのではないか。
“これが本当の世界なのだよ”と上から教えるだけの書き方では無い処が親しみを感じさせるのだ。特に、量子論の導き出す(日常のマクロ世界の常識的感覚からすれば)奇妙な結論の哲学的な解釈については、依然として疑問の余地があるような書き振りであるところが面白い。
量子論の威力は偉大であり、現実社会において欠くべからざる成果を生んでいる事実は否定のしようも無い。ただし、それは量子論の“道具”としての効用であり、世界の根源をどのようなものとして理解するかを一義的に決めるものではない。そのことを専門家によって保証された如く、安心するのである。
ユーモアにも溢れていて楽しい。例えば:
“私(レオン・レーダーマン)の母が夜間のコミュニティ・カレッジで一般物理学講座を受講したとき、彼女は高校を卒業していなかったが、二つの難問でやすやすと満点をとっていた。
ある日、講師が母を呼び止め、「ニューヨーク・タイムズ紙で、ノーベル賞をとった物理学者のレオン・レーダーマンのことを読んだんですが。あなたは、彼と親戚なのですか?」と尋ねた。
「レオンは私の息子です。」と母は誇らしげに答えた。
「へえ。だからあなたはそんなに物理学がお得意なんですね!」
「いいえ、違います。だから彼はそんなに優秀なんですよ。」”