“雪の白樺並木~”で親しまれている「トロイカ」については、その歌詞(日本語)が原歌詞(ロシア語)からかけ離れていて、長年議論されていた。
「トロイカ」と呼べるロシア民謡(歌曲)は複数あり(2014/2/27(木) 参照)、訳者が「ペテルブルグのトロイカ」の歌詞を訳したのに、メロディーを「ヴォルガのトロイカ」と取り違えたのではないかとの説が有力であったと記憶する。
合唱団白樺の主催したロシア民謡フェスティバル(2006.8)のシンポジュームでもそのような議論が交わされたことを思い出す。
最近図書館で取り寄せてもらった森ふみ/企画・編集「ロシア民謡を日本に広めた森おくじの世界 楽譜集」(2014.5)の中に、《トロイカの訳詞をめぐって》と題する一文が載っており、“取り違え論に終止符”と明確に断じていた。論拠は、この件について問われた森おくじの返書(2007.1.14)である。
それによると、「トロイカ」の歌詞は、当初(1952)楽団カチューシャ訳詞と表記され、後(1963)に楽団カチューシャ作詞と改められている。
楽団の中心的存在だった森おくじ(1925-2008)らは、日本の若者に新しく紹介する歌として、美しいメロディーの恋の悲しみの歌「トロイカ」を取り上げた。
しかし、そのままでは寂し過ぎるので、明るい喜びの歌とすべく、楽しい歌詞を作り、リズミカルに演奏するようにした。
その後、森おくじは「ペテルブルグのトロイカ」の歌詞を入手し、それが、かつて“作詞”した「トロイカ」によく似ていることが判った。こちらは1994年に「走るよトロイカ」と題して訳詞した。資料としては、1998年4月発行のものが掲載されている。
“取り違え論に終止符”が、本書の企画・編集者である森ふみ氏(森おくじの未亡人)の強い願望であることは明白だ。
長く大衆に歌い継がれている現実に鑑みれば、「トロイカ」のメロディーが出発点において取り違えられていたとしても、あまり重大な問題ではないだろう。
錯誤による取り違えではなく、二つの「トロイカ」の“好いとこ取り”であったとしても良いのではないか。その意味で、“取り違え論に終止符”に同感だ。