アマチュア数学愛好家でも楽しく遊べる深遠な「フェルマーの大定理」が最終的に証明されたのは約二十年前、当時一般マスコミでも話題になったと記憶する。
整数nが3 以上のとき、xn + yn = znとなる正の整数 (x, y, z) の組合せは存在しない。
(n=2なら、3辺の長さが3,4,5の直角三角形の例で有名なピタゴラス数で、無数にある。)
証明の完成者たる栄誉を得たのは、イギリスのワイルズ A. Wiles (1953-)だが、先人たちの業績を踏まえた上での研究成果であった。特に、日本人数学者が提示した「谷山・志村予想」を部分的に証明したことで「フェルマーの大定理」の証明を完成させたそうだ。
この踏み台となった「谷山・志村予想」は、その後別の数学者たちによって、ワイルズの手法を応用することで、全体的な証明が為されたが、更なる理論的な拡張、発展があるという。つまり、「フェルマーの大定理」は証明の完成以後も、数学の発展を促進しているらしい。
大分前に、足立恒夫「フェルマーの大定理が解けた!」(講談社 1995)を買ってチビチビ読んでいた。著者も言うように、一般読者に証明の過程を概説する内容であって、証明を理解させようとする本ではないことが救いである。
という訳で、フェルマーの大定理とは一見無縁の、ある法則に興味が湧いた。本書の始めの方に
“一般に2次曲線上には有理点は全く存在しないか、無数に存在するかのどちらかである”
との趣旨で記述されている。有理点とは、x、y座標が共に有理数(分母、分子共に整数である分数で表せる数)の点である。無理点とは、有理点でない点だから、x、y座標の少なくとも一つが無理数である。
有理数でない数は無理数であり、数の全体を数直線でイメージすると、有理数は直線上に飛び飛びに存在し、無理数はその隙間を埋めている、というのが素人的な理解である。従って、有限の長さの線分上に有理数も無理数も無数に存在するが、その密度は異なると直観される。
この直観は、しかし、有理数も無限に存在すること、つまり、数直線上のどんな微小区間にも有理数は存在し得ることを思い浮かべると、ぐらつくのである。
さて、上記の法則の意味するところを少し掘り下げてみると、“二次曲線上には無理点しか存在しないケースがある”ということが解る。これは、素朴な脳にとっては、実に驚くべき事実だ。
文学的に表現すれば、“二次曲線上を、有理点を通らずに移動する”ことを意味するからだ。同義語反復ではあるが、“有理点は飛び飛び(離散的)だが、無理点は連続的に存在する。”
一次元の数直線の場合のイメージの二次元平面への拡張であると考えてもよいのだが、一次元では、無理数といえども連続性を有しない。それが、二次元では、無理点として、連続性を獲得することが面白い。x、y座標が共に無理数であるという制約の無いことを考慮しても、やはり神秘的だ。