昨日のことだが、ヴェランダにアブラゼミが一匹仰臥していた。自然界に生息する虫が、無防備の柔らかい腹を晒して動かない状態にあるのは、当然息絶えているものと見る思考回路が出来上がっている。
可哀想だからと、ひっくり返して伏臥の姿に戻してやろうとサンダルで試みるのだが、上手く行かない。そのうち妙なことに気が付いた。セミがサンダルに粘りつくように見えたのだ。
乾涸びている筈だから、これは不思議と目を凝らせば、なんと死んだはずのセミが脚をもぞもぞ動かしてサンダルにしがみ付こうとしている。未だ死んではいなかったのだ。
サンダル作戦は不首尾に終わったので、指でつまんで正常位に戻した。段々と動きが活発になるので、こいつは瀕死でもなく、単にヴェランダで休息して居ただけのように思えてきた。
それではと、緑葉の方へ放り投げてやったところ、自力で飛翔するではないか。しぶとい生命力に感歎するばかり。だが、そのセミは、樹木ではなく隣家の外壁にへばり付いた。美味しい樹液を求めて彷徨するほどの元気は無かったのかもしれない。
その無声のセミの健気な生き様を拝見して身も心も引き締まったのかどうか定かではないが、ボランティアグループの合唱練習に行って来たのだった。陋宅でエアコンを効かせた室内に籠っているよりは有意義だったと思いたい。