先日、ちらっと見えたTV番組で、8世紀ごろの宇宙線の顕著な増大とその地球上の痕跡というような面白そうな話題を取り上げていた。日本の科学者の論文が各国で関心を呼び、フォローされているように伝えていた。その時は漠然とした印象が残っただけだったが、その後読んだ岩波書店「科学」2014年6月号(Vol.84 No.6)に偶然、関連記事を見付けた。
「特集 科学エッセイの楽しみ」の中の《屋久杉の年輪,岩石の磁気と宇宙現象……江沢 洋》で、(放射性)炭素14による年代測定(14C法)と、木の年輪による樹齢計算との相互検証などが簡単に紹介されている。
14C法は、小生も学生の頃から、つまり半世紀以上前から概念は知っている。14Cは放射線を出すことにより自然にその量を減らしており、その崩壊過程は安定で、半減期は5730年とされている。したがって、物質中の14Cの含有率を計れば、その物質の年齢が判るという理屈だ。
具体的には、空気中の二酸化炭素が植物に取り込まれてからの時間を計るものだ。空気中の二酸化炭素に含まれる炭素は、殆どが炭素12(12C)で、微量の14Cなどが一定の割合で含まれる。その14Cの割合が、植物体内では、光合成をやめたときから自然崩壊で減っていくことを捕えるものだ。
という程度の理解で止まっていたのだが、ある疑問を伴ったままであった。(放射性)炭素14の崩壊は、空気中にあっても、植物体内にあっても全く同じように進行する筈だから、ある時点で両者を比べることに意味があるだろうかとの疑問だった。
逆に言えば、異なる時点での計測値を比較することには明らかに意味がある。つまり、既知の時点間での、炭素14の理論通りの減少割合を確認できるだろう。しかし、これでは、経過年数を求めるという目的には無価値だ。
空気中からの炭素の補給が止まってからの年数を求めるには、空気中の炭素の
14C含有率の経年変化が判っていなければならない。この点の情報を欠いたままで炭素年代測定法を漠然と思い浮かべていた半世紀だった。
今回、江沢先生のエッセイで、その疑問があっさりと払拭された。空気中の炭素14の割合は(通常は)ほぼ一定であるとの前提があったのだ。このことは当たり前のようだが、実測で検証されなければならない。それが屋久杉の年輪計測で確認できたのだった。
年輪によって形成時代の明確な部位の14C含有率のデータを揃えれば、空気中の
14C含有率の時代的変化が判る。実際には、殆ど一定であるという結果が得られたのだ。これで年代判定のためのモノサシが出来たことになる。
放射線による自然崩壊が有りながら、14Cの率が変わらないのは、宇宙線の作用で常に補充されるからであることも江沢エッセイに教えられた。
随分不得要領な駄文を綴っているが、漸く頭記の8世紀ごろの事件に辿り着けそうだ。屋久杉の14C測定で、8世紀中頃の数値が異常に高いことが判明しており、その原因は不明であった。
約半世紀を経て今年2月、屋久杉には、別に774~775年にも宇宙現象のピークが刻まれていることを日本の学者が報告したと江沢先生は結んでいるのだ。その具体的な内容は物理学会誌2月号を見なければならないので、当分お預けだが、宇宙と歴史のロマンに浸りたい願望が募る。
なお、8世紀中ごろから後半の時代は、歴史上、天変地異の顕著な時期ではなかったのか、想像が膨らむ。