司会者が「冬の夜」を指示した。ピアニストは楽譜を持っていなかったらしく、調を探った後、やや低めの音域を定めて、前奏無しで掛け声とともに弾き始めた。
当方は歌い易い音高から始めた。ピアノに合せる意識は無かった。結果的に皆さんより高めに歌うことになった。途中で音を下げて歌う気にはなれなかったので、そのまま歌い通した。明らかに不協和音なのだが、それを追い掛けるのも一興という気持ちがあった。
司会者が手拍子を始めたり、ピアニストが強く弾き出したりしたのは、音が違うよと言うご注意なのだとは思ったが、無視したのは些か大人気ないとは思う。
一曲終わるごとに皆さん拍手する慣例となっており、異調で歌った当方も拍手を受けたような妙な気分になる。近席の2,3人の方が「誰かハモってた」とか「ハモリじゃなくて、調が違うのだ」とか聞こえよがしに会話しているのが聞こえた。「ピアノに合せればいいのに」との声もあった。
その会話に加わわらなかったのは、やはり一抹の後ろめたさがあったからだろう。ヂレンマだな。