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Channel: 愛唱会きらくジャーナル
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童謡「かりがね」② ~ 「に」が「の」に誤植 ~ 「かなりや」の影

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前回の童謡「かりがね」の歌詞に些か引っ掛かるところがあった。“渡る野分きの さらさらと”が何とも落ち着かない。“野分き”とは端的には台風である。“さらさらと”の優しい響きにそぐわない。
 
原詩に当たってみることにした。作詞者・吉田一穂は意外にも(失礼)一廉の詩人であった。当方が知らなかっただけだ。立派な『定本吉田一穂全集』全3巻・別巻1巻(小沢書店、1992.61993.4、金子光晴,西脇順三郎監)が多数の図書館に蔵されていた。
 
その第1巻に目当ての「かりがね」が載っていた:
 
     かりがね
 
おちる木の實の夜をこめて
納戸で蟲がなきあかす。
 
わたる野分にさらさらと
月さす背戸のすゝき原。
 
がんがんがん、かりがねさん
わたる月夜の、かりがねさん。
 
西瓜ぬすっとみつけたら
がんがんがんと、鐘ならせ。
 
“わたる野分に”となっている。これなら、“さらさらと”は“月さす”に掛るだろうから違和感は無い。イメージ 1
 













そうなると、楽譜の“野分の”はなにゆえか、気になるので、これも調べざるを得ない。こちらは厄介だった。なにしろ“忘れられた”童謡だ。
 
ネット検索の結果、2種類の楽譜集に収載されていることが判り、うち一つが幸いにも手近で閲覧できた。
 

≪中山晋平作曲全集 童謡篇上  全音楽譜出版社/1954≫には、平仮名の歌詞で載っており、楽譜に付記の方は“のわきの”であるが、歌詞一括の部では“野分に”であった。

イメージ 2イメージ 3

 

したがって、“のわきの”は誤植であると判断された。

 

多分、楽譜初出時に“ノワキノ”と記され、そのまま引き継がれたのだろう。

 

ところで、この歌の出だし部分のメロディーは、西條八十/成田為三「かなりや」にそっくりである。「かなりや」が「かりがね」に先行すること約3年である。

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