某施設の童謡を歌う会で、“今年が童謡雑誌「赤い鳥」発刊百周年の節目に当たることにちなんで、忘れられた童謡を歌いましょう”と、吉田一穂/中山晋平「かりがね」の楽譜が配られた。
当方も初見であった。メロディーは癖が無く歌い易いように見えた。歌詞はカタカナで楽譜に書き込まれていた。楽譜は回収されたが、歌詞を復元すれば次のようであった:
≪オチルコノミノ ヨヲココメテ ナントデムシガ ナキアカス
ワタルノワキノ サラサラト ツキサスセトノ ススキハラ
ガンガンガン カリガネサン ワタルツキヨノ カリガネサン
スイクヮヌスット ミツケタラ ガンガンガント カネナラセ≫
≪ナントデムシガ≫と≪ツキサスセトノ≫の2箇所の意味が通じなかった。
取り敢えず、前者は≪何と 出虫が≫と、後者は≪月射す 瀬戸の≫と読んだ。どちらも苦し紛れの無理な読み方であることは明らかで、依然、意味不明に近い。
皆んながカナをそのまま発音するのを聞いた講師が、≪ナンドデムシガ≫、≪ツキサスセドノ≫と助け舟を出した。古い楽譜の薄いコピーで、濁点が飛んでしまったのであった。
総ての濁点が飛んでいれば、状況は違っていたかも知れない。≪デ≫と≪ガ≫の濁点は健在であったから、≪ト≫を≪ド≫と読む機転は利かなかった。歌詞を漢字かな交じり文で記せば次のようになるか:
落ちる木の実の 夜を込めて 納戸で虫が 鳴き明かす
渡る野分きの さらさらと 月射す背戸の 薄原
がんがんがん 雁がねさん 渡る月夜の 雁がねさん
西瓜盗っ人 見付けたら がんがんがんと 鐘鳴らせ