子育ての自然誌 狩猟採集社会からの眼差し(五) ルソーの野望(高田 明)
ルソーについては断片的な知識はあった。“社会契約論”で歴史上大きな影響をもたらしたとかいうことは昔々の受験勉強で暗記した知識の残滓だ。童謡「むすんでひらいて」の作曲者であることも一応知っていた
しかし、上記エッセーによれば、ルソーは思想家・音楽家に留まらず、自然科学的な研究にも力を入れたスケールの大きい人物だったらしい。
音楽の分野でも、当時絶大な人気と権威を誇ったラモーと論争していたという。
≪ルソーの音楽理論は、彼の言語理論と密接に結びついている。音楽と言語はその起源を同じくする、すなわち、これらはいずれも他者と関わるための精神的な欲求および情念から発するというのである。~この思想は、神学的な発想から音楽理論を解き放っただけではなく、現代の言語科学やコミュニケーション理論の基盤をも形成することになる≫
ルソーの「言語起源論」(1763年頃)は、もともとは大作「人間不平等起源論」(1755年)の一部だったそうだ。今から二百五十年以上も前に音楽・言語同源論を唱えていたとは驚きだ。言語(げんご)歌(うた)起源論と同列に考えるべき内容かどうかは判らない。
“いずれも他者と関わるための精神的な欲求および情念から発する”ことを指しているだけだとすれば、現代の“言語(げんご)歌(うた)起源論”のような自然科学的根拠のある理論ではない。むしろ、“思想”に近いものと言うべきだろう。