戸部新十郎「秘剣水鏡(みつかかみ)」(光文社時代小説文庫 2018.6)を読んだ。新聞の書評欄に、優れた時代小説集として取り上げられていたので図書館にリクエストした。既刊の中短編をまとめた文庫本であるためか、比較的早く順番が回って来た。
版元のキャッチコピーは次の通り:
“金沢に五代藩主、前田綱利公の初のお国入りが決まり、兵法御覧の差配を担った富田重持は、加賀に古来より伝わる“深甚流”の剣を披露することにした。だが、この流派を継ぐと称する男は邪剣の遣い手であった。重持は深甚流のひそかな伝承者とされる老いた百姓を探し出し、邪剣の士と対決させるが……。(「水鏡」より)剣豪小説の白眉と讃えられる珠玉の十編収録。”
剣豪小説と謳っているが、いわゆる人間模様を浮き立たせるところに特徴があると思われた。道義的にも、必ずしも勧善懲悪ではなく、英傑譚とも言い切れない、不思議な味わいのある作品集であった。
とにかく、時代小説として楽しんだだけで、目的が達せられた上、余得があった。収録10編のうちのどれかに登場した≪駒込天沢山竜光寺≫なる寺(住職・虎伯和尚)が、実在するならご近所なので、検索したところ、あった:
天澤山龍光寺(てんたくざん りょうこうじ) 東京都文京区本駒込1-5-22
“虎伯和尚”も、開山・虎伯大宣禅師(東福寺240世、鈴鹿龍光寺中興24代)として同寺のHPに記載されている。
“余得”は、その先にあった。「早春賦」ゆかりの寺だと言うのだ。灯台下暗しで、初耳である。“早春賦ゆかり”とは、作詞者・吉丸一昌の菩提寺であることを指していた。
寺HPによれば、≪一昌忌法要と共に『吉丸一昌顕彰コンサート』等を開催して参りましたが平成22年、吉丸一昌没後95年を迎えるに当たり境内に『早春賦』の歌碑を建立致しました≫とのことである。