古色蒼然たる「日本名歌五〇〇曲集」(奥田 良三/山本 芳樹/共編 新興音楽出版社 1942)の目次を眺めていて、想定外の作詞者名に遭遇した。
“60 フタアツ・・・(まど・みちを作歌・山口保治作曲)”
カタカナの“フタアツ”も不思議な題ながら、“まど・みちを”とは、今の人ではないか、と思った。念のため検索すると、つい2か月ほど前に亡くなっていると判った。
“2014/02/28 - 童謡「ぞうさん」や「やぎさんゆうびん」などで知られ、やさしく深い言葉で命の貴さをうたいあげた詩人のまど・みちお(本名石田道雄〈いしだ・みちお〉)さんが、2月28日午前9時9分、老衰で亡くなった。104歳だった。”(www.asahi.com/articles/ASG2V54F3G2VUCLV00B.html)
楽譜をなぞってみると、気の所為か、歌詞もメロディーも聞き覚えがあるようだった。聞いたことが、あるいは歌ったことがあるとすれば、六十年ほども前のことだろうか。
歌詞第3番に至って目を見張ることになる。
ふたあつ ふたあつ なんでしょね
お目目がいちに ふたつでしょ
お耳もほらね ふたつでしょ
ふたあつ ふたあつ まだあって
お手手がいちに ふたつでしょ
あんよもほらね ふたつでしょ
まだまだいいもの なんでしょか
まあるいあれよ かあさんの
おっぱいほらね ふたつでしょ
お目目がいちに ふたつでしょ
お耳もほらね ふたつでしょ
ふたあつ ふたあつ まだあって
お手手がいちに ふたつでしょ
あんよもほらね ふたつでしょ
まだまだいいもの なんでしょか
まあるいあれよ かあさんの
おっぱいほらね ふたつでしょ
こんな歌詞が七十年以上も前の日本で公然と罷り通っていたのか、と驚くのは、己の品格が下劣であることを証明するのかも知れない。就学前の幼児か小学校低学年の児童であれば、平然と歌えるのだろう。邪念とは無縁の、清らかな心の子供に帰りたい?
この歌のメロディーが別の歌を連想させるのも気になった。“ないしょ ないしょ ないしょの話は あのねのね ~”と、こちらの歌詞はすっかり身に沁みこんでいる。検索すると、「ないしょ話」で、作詞は結城みちを、作曲は山口保治、つまり、「フタアツ」と同じ作曲者だった。「フタアツ」の3年ほどあとの作らしい。
なお、こちらの作詞者・結城みちをは、まど・みちをとは対蹠的に、24年の短い人生だった。実に80年もの差がある。それでも、作詞家として世に与えるインパクトは、今となっては対等なのだ(尤も、受け止める人によるが)。