吹聴はしないが、内心、アマチュア歌手のつもりでいると、見るもの、聞くもの“歌”と付くとツイツイ気を取られる。もう十日ほど前のこと、日経新聞朝刊の一面(だったかな?)コラム≪春秋≫に「就職いろは歌」なる“歌”の存在が記されていた:
2018/5/17付
恐慌に見舞われた昭和の初めは極度の就職難の時期だった。学生はいかにして難関を突破するかを必死に考え、就職戦術論が急速に発達したといわれる。そのころつくられた「就職いろは歌」は、戦術集ともいうべきものだ。尾崎盛光著「日本就職史」が紹介している。
▼「一応は断られると知るべし」「論より具体案」「はしっこく、こんきよく」に始まり、めだつのはやはり面接対策だ。「待ってる間も試験」「眼(め)は常に相手の眼へ」などが並ぶ。「ほめるのも善し悪(あ)し」は、お世辞は控えめにという戒め。「抜目(ぬけめ)も愛嬌(あいきょう)」と、欠点も武器に転じると励ます。多くはいまも、うなずけよう。
▼が、現在の就職戦線を作者が見たら、驚くのではないか。一部の企業は人工知能(AI)による面接を始めている。スマートフォンなどを通じてAIが学生に質問し、回答内容と音声や表情のデータをもとに、適性やバイタリティーを判定する。面接官との良好な関係づくりに心を砕く、いろは歌の戦術にとっては強敵だ~≫(https://www.nikkei.com/.../DGKKZO30610880X10C18A5MM800...)
早速ネット検索して、情報源を確認したところ、次のことが判った:
1931年不況のため大卒者の3人に1人が就職できず ※映画『大学は出たけれど』(1929年)
1934年「就職いろは歌」が『実業之日本』(昭和9年2月号)で紹介
当方、一応“歌手”だから、“歌”なら歌詞と共に曲譜も存在するものと信じて疑わず、それらを入手するべく、紹介されているという雑誌の閲覧を計画する。蔵書検索して、手の届きそうな大学図書館に出向いた。
幸いに現物がしっかり保管されていたが、複写の手続きが大ごとだった。個人でコピーすることは不可で、職員が作業し、料金も1枚40円と割高であった。
さて、肝腎の「就職いろは歌」だが、これはとんだ情報の劣化であった。正確には「就職いろは歌留多」であり、このタイトルが右ページから左ページにかけて「多留歌はろい職就」と大書され、「多留」が左ページに分れているのを、そそっかしく右ページだけで完結と早とちりしたものだ。
「いろは歌」と聞けば47字あるいは48字の韻文を日本古謡のメロディーに載せて歌うことを反射的に思い浮かべるが、「いろは歌留多」では歌曲ないし音楽の連想は無い。
情報の劣化がどの段階で発生したのかまでは確認できないが、日経さんも出典を確かめるべきではなかったかな。