かなりの旧聞に属するが、日本学士院の次のような“お知らせ”があった:
日本学士院は、優れた研究成果をあげ、今後の活躍が特に期待される若手研究者6名に対して、第10回(平成25年度)日本学士院学術奨励賞を授与することを決定しましたので、お知らせいたします。
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氏名 | 後藤 真孝 (ごとう まさたか) | |
生年月 | 昭和45年5月(43歳) | |
現職 | 産業技術総合研究所情報技術研究部門首席研究員 | |
専門分野 | 音楽情報処理 | |
研究課題 | 計算機による音楽・音声の自動理解とそのインタフェース応用に関する先駆的研究 | |
選考理由 | 後藤真孝氏は、コンピューターによる「音楽の自動理解技術」という困難な課題に挑み、その成果によって世界的なインパクトを及ぼした音楽情報処理分野の第一人者です。コンピューターが、音楽を音響信号として膨大に蓄積し、再生することは容易でしたが、音楽として混ざり合った複数の音が持つ複雑な時間構造・周波数構造を自動理解することは困難でした。その自動理解のためには、人間が音楽を聴くときに無意識に行う処理を工学的に計算可能にする必要があります。後藤氏は、音楽に対する鋭い洞察と卓抜な数理的操作を通じて、複雑な実世界の音楽音響信号から(1)ビート(拍)の位置を推定し、(2)メロディを抽出し、さらには(3)曲がいちばん盛り上がる「サビ」の区間を同定するための画期的な技術を確立しました。同氏はこの技術にもとづく応用研究として、一般ユーザーの参加・貢献によって利便性が向上する能動的音楽鑑賞サービスをインターネット上で実現し、また学術利用可能な研究用音楽データベースを構築して、音楽情報処理分野全体が発展する基盤を築きました。加えて同氏は、音声言語情報処理の分野でも新たな発想で優れた成果を挙げました。 |
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音楽が数学や物理学など自然科学と密接に係わっていることは明らかだし、現代の音楽技術はITを駆使して能率を飛躍的に向上させただけでなく、音楽の素質や素養とは無縁の者でも作曲できる領域を開拓した。
そして、後藤真孝氏は“音楽音響信号から(1)ビート(拍)の位置を推定し、(2)メロディを抽出し、さらには(3)曲がいちばん盛り上がる「サビ」の区間を同定するための画期的な技術を確立”したわけだ。
その応用としての“能動的音楽鑑賞サービス”とは何か。ひょっとして、曖昧、不完全な楽曲記憶から原曲を検索するシステムなどか。或いは、個人の好みに合う楽曲を拾い出すシステムか。それらが、人の口ずさむメロディを認識し、情報処理する技術を組み込んでいるのか。無限の可能性を秘める人智に、驚異の念を新たにした。