某旧制高校OBのサークルの会報に先の大戦中の経験談が連載されている。小説の体裁だが、ほぼ事実録であると推測される。
高校、大学時代を経て、繰り上げ卒業しての海軍xx兵団での予備学生としての日々の段に至ったところでのひとつの事件が「海ゆかば」で締めくくられている。
「海ゆかば」が同時代人にどのように認識されていたか、その一例として実に印象的である:
≪ 連載小説
死の日まで天を仰ぎ
○○ ○第二部 行く河の流れの中で
四
(編注:兵科に配属 △△の死)
~~~「修正」と称する鉄拳制裁がぐんとふえた~~~「気を付け」の姿勢をしたまま「足ひらけ、歯をくいしばれ」で呼吸を止めてじっと待っていると、やがて頬骨から頭蓋骨にかけガクッと衝撃が来て、そのうち頭がボーッとして~~~
~△△が膝をつくと、 ▼▼中尉が「立てえッ」と叫ぶなり、紫色に腫れ上がった△△の顔を半長靴でカッと蹴り上げた。人事不省におちいった△△を、 ▼▼中尉はなおも蹴ったり殴ったりした。△△は担架に載せられて〈入室〉した。四区隊の者の話では、 ▼▼中尉は病院へ見舞いに行ってまた殴ったという。
△△学生は二日後に病室で息をひきとった。噂では、頬骨がこなごなに砕けていたという~~~△△の〈病死〉が伝えられ~~~△△の告別式の日~~~「敬礼」ののち、《海行かば》をみなで合唱した~~~
学生隊長は開口一番「お前たちは消耗品だ」ときめつけた~~~消耗品は毎朝、朝礼のたびに、例の《海ゆかば》を歌わされた。
海ゆかば 水漬く屍
山ゆかば 草むす屍
大君の辺にこそ死なめ
かえりみはせじ
まさに消耗品の歌であった。 ≫
(○○ ○、 ▼▼、△△は人名なので伏せておく)