夢枕獏「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」(徳間書店 2007)を最終、巻ノ四まで読んだ。巻ノ三までは冒険活劇風に面白く読み進んだが、仕上げに差し掛かって稍停滞感があった。超能力を振るう登場人物たちの活躍に枠をはめて、現実社会における引導を渡すとなると、どうしても読者の興奮も醒めてくるのだろう。
気の付いたことを二、三記録しておこう:
第35章(二)に玄宗皇帝と楊貴妃が愛欲を極めた華清宮の温泉について≪現在でも一時間の湧出量は125トン、、、43℃、、、石灰、炭酸マンガン、硫酸ナトリウムなど9種類の有機物質が、、、≫と書いている(p.93)が、これら例示された物はいずれも無機物質の範疇にあり、有機物質とは言えない。
第38章(四)に≪この密をもって――日本国を仏国土となす それを空海は日本で約束をした。阿弖流為。坂上田村麻呂。、、、≫とある(p.233)。東北地方に支配権を確立しようとする大和朝廷の征討軍と、これに抵抗する現地勢力と、それぞれの総大将と空海に接点があったのか、著者の創作か、気になった。
三者の生没データを並べて見ると、
のようで(ウィキペディア)、空海渡唐前に三者の接点があったとしても時間的矛盾は無い。空海が東北地方に出没した形跡があるのかにも興味が湧く。
結の巻(十一)に、中国三国時代の英雄曹操の「短歌行」が引用され、その第四行「去日苦多」が≪去りし日のみはなはだ多し≫と読み下してある。「苦」に≪はなはだ≫の意味があるとは知らなかった。知らなければ≪苦しみ多し≫と読むところだ。念のためネット検索すると、≪去る日は苦(はなは)だ多し≫のような読み方もある。