田村祥蔵「仙人と呼ばれた男 画家・熊谷守一の生涯」(中央公論新社 2017.11)を間歇的に読み終えた。著者が惚れ込んだ熊谷守一の人柄、生き様に焦点を当てた伝記だ。世俗の風に染まず、世間に阿る事無く、己の感じるままに生きた熊谷その人と、その具現たる画業に惹かれて集まった一流の人々との交流が描かれている。
彼が文化勲章の授与を打診されて怒り、断った話は有名だ。偽らぬ心のままに97歳の長寿を全うした熊谷は、まさに仙人の名に値するだろう。尤も、未だ若い頃から仙人の風格を漂わせていたようだが。
彼は作曲家・信時潔と早くからの親友であった。それぞれの子の結婚によって縁戚関係が出来た事は当方も承知していたが、お互いに相手の本業に並み以上の関心を持ち、嗜んでいたことを教えられた。
戦前の逸話として、彼の年収が五百円ぐらいだった頃、税務署が千五百円と査定して、彼がまごまごしているうちにその税金を取られたことが語られている。翌年からは収入が千五百円になり、税務署は恩人みたいなものだと鷹揚な人柄を偲ばせる。
信時潔(1887年12月29日- 1965年8月1日)と熊谷守一(1880年4月2日- 1977年8月1日)の忌日が同じと言うことも本書に教えられた。もっと早くに気付いても不思議は無かったのだが。