古関裕而の作曲で「海を呼ぶ」(詞 薮田義雄)という歌が「日本作曲年鑑 1934年」に載っていた。
楽譜を見ても曲のイメージが湧かない。五線冒頭に調号が無いので、愛しのハ調かと思いきや、♯や♭などの臨時記号がふんだんに置かれており、変拍子でもある。親しみ易い“古関メロディー”の面影は無い。
彼が既に歌謡曲の世界で売れっ子になっている時期に、このような難解な現代音楽を作っていたとは意外だ。二十歳の頃に国際作曲コンクール(イギリス)に入賞したというから、元々はクラシックの曲を作っていた訳で、現代音楽を目指していたのだろうか。流行歌を作曲しながらも、クラシック畑の現代音楽も捨ててはいなかったのか。
歌詞は次の通り:
潮幽く 星はかくれて 綰曲なす波のうねり
堪へがたくして 海を呼ぶ 應へなき 海を呼ぶ。
面やつれ 髪おひしげり 腐りゆく 鞏音のまへに、
海を呼ぶ、 ひたすらに海を呼ぶ。
漢字は総て訓読みするのだが、「綰曲」と「鞏音」は、ルビ無しでは読めない。「鞏」は「跫」だったかもしれない。詞意は、凡そ察しが付くが、間違っても楽しいものではない。古関の演奏指示も“おそくなく、陰惨に”となっている。どんな歌か、一度聴いてみたい。