(承前)日経夕刊≪文学周遊―――石川啄木≫に短歌が一首紹介されている:
はうきぼし王座につかずかの虚(こ)空(くう)翔(かけ)る自在を喜びて去る
文意がやや曖昧なのだが、啄木の作と理解した。
手持ちの岩波文庫「啄木短歌集」(S42.02.20発行)には載っていない。巻末の解題(1957.06.12)によれば、“本歌集改版に際し約二百九十三首を増補した。「一握の砂」五百五十一首、「悲しき玩具」百九十四首、「補遺」一千三百六十六首、合計二千百十一首が現在探り得た啄木短歌のすべてである”とのこと。
改版後60年余の今、啄木短歌の総数は更に増えているのかもしれない。念のためネット検索したところ、それらしき記載が海部宣男「天文歳時記」(角川学芸出版 2008.1)に見付かった(p.74):
≪~啄木は、あたりはずれがおおきい。
はうきぼし玉座につかずかの虚空翔る自在を喜びて去る 石川彗星
明治四十年秋、小樽で、おそらくコップ彗星あたりを見たのだろうと思う。 ~≫
日経記事では「王座」で、上掲書では「玉座」という違いがある。常識的には「玉座」だろうが、どちらも出典が不明なので今のところは確認できない。啄木は「彗星」とも号したのか。