当ブログで何回か取り上げた作曲家・平岡均之の作品に「春やいづこに」という三部合唱曲(変ロ長調 2♭、6/8拍子、21小節)がある。島崎藤村の第2詩集「一葉舟」(1898年6月、春陽堂)に発表され、後に藤村詩集(1904年9月、春陽堂)に再録された詩「春やいづこに」に作曲したものだ。
かすみのかげにもえいでし |
糸の柳にくらぶれば |
いまは小暗き木下闇 ( コシタヤミ ) |
あゝ一時 ( ヒトトキ )の |
春やいづこに |
色をほこりしあさみどり |
わかきむかしもありけるを |
今はしげれる夏の草 |
あゝ一時 ( ヒトトキ )の |
春やいづこに |
梅も櫻もかはりはて |
枝は緑 ( ミドリ )の酒のごと |
醉うてくづるゝ夏の夢 |
あゝ一時 ( ヒトトキ )の |
春やいづこに |
藤村26歳の時のロマン主義溢れるこの詩に、平岡がいつ曲を付けたかは不明だが、1932年の出版物に収録されているので、多分その少し前、30歳頃の作品ではないか。
この曲を来月、北国の“さくらの会”のコンサートで歌いたいと画策中、他の音楽家もこの詩に作曲していることが判った。三島喜代造の作曲で「春やいづこに」が1934年の出版物に掲載されている(ニ長調 2♯、3/4拍子、28小節)。この人のプロフィールは未見だが、鹿児島所縁の人であるらしい。
二人の音楽家がほぼ同時期に同じ詩に作曲したことに、何か意味があるのか、気になるところだ。その頃、この詩が注目されるようなことがあったのか、単なる偶然か。「藤村詩集」は1927年に「藤村詩抄」として改めて出版されている。その後、版を重ねているようだから、話題になったのかも知れない。
なお、平岡、三島の両者に先立って、成田為三が「春やいづこに」を作曲しているらしい確かな情報が有るが、現物未見。