アレクサンドル・グロタンディーク/著「数学者の孤独な冒険 数学と自己発見への旅 収穫と蒔いた種と」(原題:Récoltes et Semailles,1983-1985 辻雄一/訳 現代数学社 1989, 新装版2015.7)を図書館から借りたものの、読み通す気にならなかった。
数学に属する記述は無く(理解できるか否かは別問題)、著者の思想及び交友の遍歴のような自伝であった。読みはしなかったが、何について述べているのかは気になるので全ページを通覧した。生産的な作業ではないと自嘲気味に。
結局、有意義な読書ではなかったものの、二十世紀の天才数学者の一人と目されるグロタンディークの人間味は十分に伝わって来た。平和を尊ぶ、弱者の味方であると思った。グロタンディークの業績など全く知らないし、理解できないに違いないが、偉大な知性の持ち主が、凡人と同じ様な趣味を持ち、楽しんでいると知り、ホッとする。
キムチ作りの話が出てくる。朝鮮の友人から教わった正統的な(白菜だけの)キムチ、カブやニンジンを加えた混合キムチ、日本の青果物に由来するという砂糖キムチを自作して賞味しているという。
彼は「夢」を大事にすると言う。夢は知的活動にとって有意義であると、肯定的である。当欄元日の投稿で、未だに夢を追いかける自分を恥かしがったが、偉人の考え方に救われる。
グロタンディークは、訳者のまとめた略年譜によれば、1945年(17歳か)モンペリエ大学に入り、バイトで“ぶどう摘み”をしたとある。特段の意味は無いが、昨年某所で歌った「ぶどう摘み」の歌がずっと頭の片隅に引っ掛かっていたので、印象が強い。
同様に、≪ABC予想≫の項で登場した“タイヒミュラー”が、年譜の1977年に記載されている。
蛇足になるが、翻訳は複雑な構文で、並みの頭脳ではすらすら読めないと思われる。原文がそうなのだろうから、それを訳した人の語学力は並ではない。誤読でなければ、訳者は著者の知遇を得てから本格的にフランス語の勉強を始めたらしい。その気力にも敬意を表したい。