カルロ・ロヴェッリ/著(関口英子/訳)「世の中ががらりと変わって見える物理の本」(河出書房新社 2015.11、原題 Sette brevi lezion di fisica, 2014)を読んだ。誰かの書評で褒めていたから借読みしたのだが、版元の宣伝文句は、ちと大袈裟だ。宣伝だから当然かもしれないが:
≪だれもが驚く、すごい物理学! 物理とは縁がなかった人も、この本なら素晴らしい体験ができる。世界的な物理学者が贈る美しい7つの講義。イタリアで30万部、世界20か国で翻訳!≫
【目次】(「BOOK」データベースより)
第1回講義 世界でいちばん美しい理論/第2回講義 量子という信じられない世界/第3回講義 塗りかえられる宇宙の構造/第4回講義 不安定で落ち着きがない粒子/第5回講義 粒でできている宇宙/第6回講義 時間の流れを生む熱/最終講義 自由と好奇心をもつ人間
全体に哲学的な解釈論の傾向が強く、物理学的な論理の説明は省かれている。だからこそ、素人にも読み易いとは言える。しかし、「最終講義」のように、その度が過ぎると、興醒めとなる。
勿論、教えられたこともある。例えば、「第6回講義 時間の流れを生む熱」に述べられているように、≪過去と未来とを区別する根本的現象は、熱い物から冷たい物への熱伝導だ≫という見方。熱の移動が無ければ、時間の流れも無いという衝撃的な思想である。
これは、時間の流れという絶対的な現象の存在を否定するものである。
目に見えず、手で触れることも出来ない「時間」というものを如何に考えるかは、古来の難問であるが、我々の認識に拘わらず絶対的な時間の流れがあることは大前提であったと思われる。しかし、現代物理学では、時間は空間や物体の相互現象に伴うものであるとの見方が有力であるらしい。見当違いかも知れないが、時間の進み方が物体の速度によって変わるという一般相対性理論とも相性が良い。
熱が熱い物から冷たい物へ移動する現象も、確率的な、偶然の結果であり、絶対的な法則ではないとも述べられている。ボルツマンが百年も前に喝破しているそうだ。
≪空間の中に重力場があるのではなく、重力場が空間そのものである≫というアインシュタインの考えは、重力波による空間の歪みをイメージするのに大いに役立つ。重力波という波動は、重力場の歪みと同義だから。
その代償として、電磁波が空間を伝わることを理解しにくくならないか心配だ。電磁波が重力場に乗るのか。電磁場も空間そのものと見るのか?
原書の執筆は4年ほど前と思われる。重力波が世間の関心を集めるのは、その後のことだからか、特段触れていないのが惜しい。