花の都パリの街が犬の糞だらけ、とはしばしば話題に上るところである。当方もそれを念頭に置きつつ彼の街を用心深く歩いていたにも拘らず、モロに踏んづけてがっくりきたのは、世紀の変り目辺りだった。
犬だけでなく、実は人の糞についても類似の話があることをフランス事情に詳しい小林善彦氏の講演(1993-1999)の記録(の再録)で読んだので、記念に残しておこう:
≪(日本の中学校を卒業してフランスの女学校に入学した娘さんが)少し学校に慣れたころ、ロンドンへ数日旅行して帰ってきたときでした。小さなチャーター機でパリの郊外の飛行場に着き、バスで学校の前まで来て解散となりました。夜遅かったのでわれわれ夫婦は車で迎えに行きました。やがてバスが着くと娘がでてきて、「ああ、おどろいた。パリの街に入ったとき先生が、さあ、皆さん、ゴミを窓から捨てましょうといった。」
これには私もおどろいた。どういうことかといいますと、やはり社会の仕組みが違うのです。パリに行ったら、午前中に散歩をしてごらんになればわかると思いますが、歩道と車道の境目のところから水が吹き出すのです。日本にはこの装置がありません。ゴミは道に捨てて、清掃人が水に流すのです。もちろんすべてのゴミを流すわけではなくて、ちゃんと大きな袋に入れて外に出すと、日本と同じようにトラックが来て運んでいきますが、小さなゴミは窓からポンポン捨てて平気なのです。
中世以来、フランス人はそれをやってきたのです。下水がないころ、ゴミは窓から捨てていたのです。ひどい話をしますと、お手洗いの中身まで窓から捨てたのです。教育と関係がなくて申しわけありませんが、いかに生活や文化に根があるかという証拠として話しますと、穴あき椅子というものに坐ってお手洗いを済ませました。いまでは日本にもある西洋便所のもとです。下に壺を置いて、夜明けになるとその壺の中身を窓からザッと捨ててしまうのです。古い中世の町にいらっしゃるとわかりますが、道の真ん中が低くなっていて、おのずからゴミは道の真ん中に集まる。そして雨が降ると流れてしまう。だから昔のパリの街はものすごく便所臭かったようです。≫(太字は当方)