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ドナ・タート「黙約」~ 枝葉繁茂 ~ ポールモール

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ドナ・タート/[]吉浦澄子/訳「黙約」(新潮社2017.8)上・下を読んだ。新聞の書評欄御推奨なので図書館から借りたのだが、さっぱり面白くなかった。枝葉の記述があまりにも豊富で、途中で投げ出しそうになったが、我慢して、後半は得意の飛ばし読みでなんとか読了の形を付けた。

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著者の古典語及び古典文学の知識には素直に敬意を表する。しかし、随所に表出する該博な知識がこの小説にとってどのような意味を持つのかが判らない。登場人物の色づけに利用されているだけのことなのか。それとも、古典に関する情報が話の本筋を決める要素なのか。当方には理解不可能だ。
 
そんな気分で読んでいると、枝葉末節に気を取られてしまう。
 
ガリレオ・ガリレイの有名な落体実験の結果を概説する箇所(下p.8)で、≪落下する物体の速度は重量に落下時間を掛けた加速度に等しい≫というとんでもない記述がある。原文がそうなっているのか、誤訳なのか。強いて文意を汲み取るならば、≪(自由)落下する物体の速度は、重量に拘わらず、重力加速度に落下時間を掛けた値に等しい≫となるだろうか。
 
翻訳から教えられた事項もある。
 
タバコを吸おうという場面で、≪ポケットからそろりとあらわれた掌のなかにはつぶれたポールモールの箱がしっかりと握られていた≫とある(下p.190)。半世紀近く前のこと、Pall Mallをポールモールと発音して、ペルメルと正されたことを思い出した。
 

ネット検索したことをまとめれば、PallMallはもともと英米でペルメルと発音されていたが、アメリカでは1970年代から徐々にパルマルに移行しつつある。今ではポルモルに近い発音もある。

 
いずれにしろ、日本ではポールモールで流通しているようだから、翻訳上は全く問題無い。
 
原題は“The Secret History”で、1994年の初訳も「シークレット・ヒストリー」(扶桑社ミステリー)だったそうだ。敢えて「黙約」と改題したのは如何なる理由によるのだろうか。当方の理解したあらすじと「黙約」とはあまり結びつかないのだが。

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