山本淳子「枕草子のたくらみ」(朝日新聞出版 2017.4)を図書館から借りて、ぼちぼち読んでいる。標題に惹かれてリクエストしたもので、期待に違わず面白い。版元のキャッチコピー:
≪藤原道長を恐れさせ、紫式部を苛立たせた書。それが随筆の傑作「枕草子」だ。
権勢を極めた道長が、なぜ、政敵方のこの書を潰さなかったのか。「枕草子」執筆に込められた、清少納言の戦略とは?冒頭の「春はあけぼの」に秘められた清少納言の思いとは?あらゆる謎を解き明かす、まったく新しい「枕草子」論。≫
当方は古典に親しまなかったから、清少納言を巡る社会的、社交的、政治的物語は新鮮で、刺激的で、驚きの連続である。本書に記述される内容のどこが著者の新知見なのかは解らないが、従来の定説を書き変えるものがあるのだろう。
さて、古典音痴の当方が、本筋とは関係の無い、著者の想像を絶する読み方をしたので、記念に書き留めておこう。
『第11章 男たち』(pp.163-186)で、『頭の弁の、職に参り給ひて』の段(第130段。段番号は諸本まちまち)に登場する清少納言の作で百人一首に採録された有名な和歌≪夜をこめて~≫が、次のように紹介されている:
「夜をこめて 鳥の空音に はかるとも 世に逢坂の 関は許さじ
心かしこき関守侍り」と聞こゆ。~
和歌(短歌)は≪五・七・五・七・七≫の音節数が常識だから、「夜をこめて~関は許さじ」で完結形である。ところが、
「夜をこめて 鳥の空音に はかるとも 世に逢坂の 関は許さじ
心かしこき関守侍り」
と括られていたものだから、自然に≪五・七・五・七・七・七・七≫と読ん
でしまった。「心かしこき関守侍り」もちゃんと韻律に嵌っているのは、偶
然だろうか。千年前の才所の遊び心だろうか。
尤も、清少納言が記号「」を使う筈はない。現代の読者が読み易いように、改行や「」を使用しているのだ。原文ではどのように表記されているのだろうか。
ある写本では≪心かしこき關守侍るめりと聞ゆ≫となっているそうで、これなら「新種の和歌か!」と興奮することも無かった。
参考:和歌の形式(ウィキペディアから)
名称 | 形式 | 備考 |
長歌 | 五七、五七、…、五七、七 | 五七を3回以上繰り返し、最後七音。 |
短歌 | 五七、五七、七 | 各時代を通して最も詠まれている形式。 |
旋頭歌 | 五七七、五七七 | 五七七を2回繰り返したもの。 |
仏足石歌体 | 五七、五七、七七 | 短歌の形式に、さらに七音を加えたもの。 |